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月夜
志れば迷ひ、志なければ迷はぬ、恋の道
土方歳三
立氷姫が、土佐藩主山内容堂のもとへ嫁いでから4ヶ月が過ぎた。
坂本龍馬、ジョン万次郎こと中浜万次郎から湯治をすすめられた。
「姫様は疲れちょる。温泉でもどうじゃ?」
「確かに。久しぶりに入った温泉は疲労回復にも利くね」
「わしは混浴でも構わんきに。万次郎、わしも湯に浸かりたいがよ」
「私は入りたいときに入るからね」
「若い男二人でいちゃつくがか?万次郎」
「龍馬さん、私は遠慮しとくよ……」
龍馬と万次郎は軍議に参加しなければならないので江戸には来れないらしい。藩主の容堂が公武合体をするのか倒幕するのかという土佐藩にとっても重要な軍議らしい。
(私は江戸へ行きますね、容堂様、龍馬さん、万次郎さん)
立氷姫は土佐から遥か遠くの江戸まで湯治に行った。
立氷姫が銭湯に行くと、其処には何度か顔見知りの相手が湯に浸かっていた。
色素の薄い長い髪を簪で留めている15歳くらいの美少女が立氷姫の姿に気づく。氷の里の出身の吹雪だった。
「吹雪……?」
立氷姫は、吹雪の白くて華奢な肩を見つめる。
吹雪の小さいが形の整った乳房を姫は熟視する。
「ひゃあ!見ないでください、姫様!」
吹雪は急いで自分の胸を両手で隠す。
そんな吹雪の仕草がいじらしくて姫は思わず笑った。
「フフフ、可愛いわね、吹雪」
湯に浸かっている吹雪の隣には儚げな雰囲気の美少女がいた。
少女は長い髪を後ろで編んでいて菊の花をした簪で留めている。
(この人が吹雪と友達の条野採菊……?!)
湯に浸かっている吹雪と採菊は楽しそうに歌舞伎やら落語やらについて語り合っていた。姫が会話に割り込める余地がない。
「吹雪、今度の台本は圓朝も喜んでくれた」
「よかったです!条野様」
裸の付き合いとはいえ、吹雪と採菊は既に親友の間柄のようだ。
立氷姫は黙ったまま、人気のない湯船に足を入れる。
熱いような冷たいようなほどほどの温度だ。
全身を沈め、容堂のことだけをひたすら考える。
きっと大丈夫よ。私はどんな困難でも乗り越えられるわ、と立氷姫は自分を
勇気付けた。
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