誰かがいる 俺(another)

1/1
前へ
/2ページ
次へ

誰かがいる 俺(another)

 another 俺「はぁ……。寒っ……」  夏の暑さも去り、吹く風がだいぶ肌寒くなってきた深夜。  ストライプのワイシャツに上下セットのネイビービジネススーツを身につけ、俺はため息をつきながら帰路についていた。 俺(なんでうまくいかないかねぇ……)  今月に入ってからどうにもうまくいっていない。  企画提案はことごとくボツにされ、締切間近の仕事を押し付けられ、取引先に向かうタクシーが目の前で通り過ぎる。  おまけに、今日は気分直しで買った缶入りブラックコーヒーが、突如吹き出すという始末。 俺(こうも運気が悪いとね……)  こうも不運続きだと、もう真剣に考え込んでしまう。 俺(俺、ダメなのかな……)  俺は額に手を当てて落ち込んだ表情になる。  いい加減に辟易してきた。  楽しくもない最近の日々は、一体いつまで続くのだろうか。 俺(まぁでも、しゃあねぇか……)  考え込んで悩んでいても仕方がない。結局やるべきことはやるしかないのだから。  俺はあれこれと考えながら、黒の革靴で歩みを進めて、自宅へと向かった。  やがて自宅が見えてきた。  木造2階建てのアパート。駐車場も完備されている1階角部屋の1DK、105号室。一人暮らし用の部屋だ。  部屋近くの駐車場には穏やかで優しいブルーの車が駐車されている。  ドライブレコーダーも搭載されているこの車は俺の好きな色だ。  寒色の青系統の色が好きで、スーツも車も購入する際に再三悩んだ。 俺(さてと。風呂でも入って寝ますかね)  ぼんやりと考えながら歩き続ける。  だが、今日はおかしなところがあった。  6.5畳の洋室の窓辺辺りから明かりが漏れている。 俺(えっ……。なんで……!?)  俺は焦りながら、窓辺へと音を殺して移動する。  一人暮らしの部屋にも関わらず、明かりがついている。  しかも、朝日を入れるために開けていたカーテンも閉められている。 俺(明らかに、ヤバいよな……)  一人暮らしの自分の部屋に明かりが勝手に点いていて、カーテンまで閉められている。  自分以外の誰かがいる。  主観だが、これは事件の域を超えて事変でしかない。 俺(通報するべきか……?)  しかし、不審者の様子は全く見えない。  可能性は低いが、もしかしたら知り合いが上がり込んでいるだけかもしれない。  可能性は低いが。  俺は唇を湿らせると、ひとまず外から様子を伺うことにした。  俺は気配を殺して窓辺からゆっくり移動すると、玄関のドアノブに手をかけた。 俺(開いてる……)  今朝方、施錠した玄関ドアは開錠されていた。  恐らく誰がいる。 俺(刃物とか持ってたら終わるよな……)  脳内警鐘が鳴る。  俺は施錠の有無を確認すると、気配を殺したままゆっくりとドアから離れた。  そしてそのまま自宅の周囲をうろつきながら、様子を見る。  色々と警戒しなければ。  このまま不審な動きをしていれば、家主なのに不審者と思われてしまう。  室内は明かりこそ点いているが、静かな様子だ。物音や漁る音も一切しない。  だが、わずかにAIスピーカーの起動ランプが窓から漏れてるのが見えた。  不審者である誰かがいることによって、AIが反応しているのだろうか。 俺(ってかなんで、AI起動してんだ……?)  あまりにも不審すぎる。  誰がいるんだ。そしてなんの目的で。  そんなことを考えていると、突如ベランダ付近に設置していた屋外ライトが点灯した。 俺「うぉ……! 点いた……」  俺は、隣の部屋の外壁付近で、驚きの声を静かにあげた。  対人センサーとAI音声連動運転を備えた屋外ライトが点灯する。  対人センサーからは少し離れているので、その影響で点灯することはない。  ということは、誰かがAIに指示しなければ、ライトはつかない。AIの誤作動でなければの話だが。  どちらにせよ、恐怖でしかない。  だが、ライトが点いた影響で誰かが様子見をする可能性もある。  顔を確認することができるかもしれない。  俺はゆっくりと窓辺に近づいた。  ライトの影響で自分の足元に影が映る。  何者だ。一体誰がいるんだ。  いるなら顔を見せろ。 外の冷えた空気が鼻腔をくすぐる。  俺は鋭い目をしながら、窓とカーテンを睨みつける。  気づけば、体は身構えていて、臨戦態勢だった。  俺は警戒心を強くしながら、30秒ほどその場に待機した。  だが、動きはない。 俺(出てこねぇな……)  警戒した脳内で俺は考える。  その時、俺はふと考えが巡った。  もしかしたら、このライト点灯は囮で、本命は車かもしれない。  車に何か細工をして、窃盗などの犯行を実行するのかもしれない。 俺(だとしたら……!)  俺は気配を殺しながら、持てる限りのスピードで、車の方へと移動した。  移動した先、車はまだ駐車されていた。 俺(よかった……)  どうやら窃盗は防げたようだ。  だが安心はできない。  もしかしたら、イタズラや何かの罠が仕掛けられているかもしれない。  俺は警戒しながら大まかに車を調べる。  見たところ大きな異常はない。 俺(車は問題ないか……?)  その時、車内で小さく短い電子音が響き、搭載されていたドライブレコーダーの起動音が聞こえた。 俺(はっ……!? なんで……!?)   俺は驚きを隠せなかった。  エンジンもかかっていないのにドラレコが起動するのはありえない。  片膝をついて前輪付近を調べていた俺は、思わず立ち上がった。  そして、フロントガラス越しにドライブレコーダーへと覗き込むように視線を向けた。  主電源である赤色のランプが付き、カメラアクセスの緑色のランプが点滅している。  いわゆる待機状態というか読み込み中の状態だ。 AI「顔認証中です」  突如、くぐもったAIの声が車の中から聞こえてきた。  間違いない。部屋で使っていたAIスピーカーの声だ。  AIが突如、ドライブレコーダーにアクセスして、カメラアクセスをしている。  一体どういうことだろうか。 AI「顔認証中です」  俺が呆気に取られていると、再びくぐもった声が返ってきた。  やがて数秒後、AIは冷静に反応した。 AI「本人確認完了。登録者本人であることを認めます」 【終】
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加