矛盾した償い

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 住み込みで働ける場所を探し、名前を偽って働けそうな個人経営の場所はないかを必死で探した。できるだけ田舎で、それでいてあまり個人のことを詮索してこないようなそんな場所はないだろうかと探した。見つかったのは、隣の県にある、小さな町工場だった。刑務所がその街にはあって、前科持ちの人間でも働ける場所になっているようなことがネットに載っているのを見つけたのだった。どんな人間でも採ってもらえて、女子寮も小さいながら併設されているとあったので、私は迷わずそこへ行く決断をした。  結果を言えば、すんなり私はそこで衣食住の守られた生活を送ることを許された。本当なら必要だろう戸籍謄本のコピーなども一切提出を要求されなかった。一枚の履歴書を、拙いながらに書いただけで済んでしまった。嘘の履歴書だったがそれがバレることもなく、給料は手渡しの、今思えば工場自体がなにか悪いことでもやっていたんじゃないかと思うほど杜撰な管理状況だった。  しかし、ついに私はその職場も辞めて、今こうして元居た地に足を運んでいた。すべてを清算するには、こんなにも時間が必要なのだ。少なくとも、今もどこかで暮らしているだろう母に迷惑をかけないためには必要な時間だった。名前を変えて、十年という年月で風貌も随分と変わった今でなければそれはできないのだ。未成年という肩書きがあるうちは絶対にできないことだった。  各地からかき集めたそのばらばらの白い物体を私はなるべく元の形に戻してみる。すべてを回収しきることはできなかった。細かくなりすぎたそのすべてを見つけることができなかったからだ。ばらばらだったそれらは、それでも一つ一つの形状を保っていて、なんだか不思議な感じがした。十年という期間は周りの物を風化させるには充分だったのだろうけれど、芯の部分は残り続けるのだ。私は丁寧に、集めたものをきっとそうだっただろう場所に配置していく。薄っすらだが分かるその全体像を私は立ち上がって眺めた。――小さな人型が、そこにあったのだった。  妊娠が分かったのは、私が強姦に遭ってから二ヶ月半も後のことだった。元々生理不順だった私は生理が来ていないという不安をあまり抱えていなかった。そんなことも考えられないほどに消耗していた。ただただ起きた事象と向き合いきれず、学校へは行ったふりをして何日も休んだことさえある。
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