エリオット殿下とお忍びデート 4話

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 エリオット殿下が、きゅっとわたくしの手をほんの少し、強く握った。  彼を見上げると、じっとこちらを見つめる瞳と視線が交わる。 「こっちにおいで。最後に見せたい場所があるんだ」  見せたい場所? と目を(またた)かせると、彼はわたくしの手を引いて歩き出す。賑わっていた王都から外れていく。  高台へと足を進めるエリオット殿下。  周りにも人がいるから、珍しい場所ではないみたい。 「……っ!」  夕焼けに染まる王都を見渡して、思わず言葉を呑む。  温かな赤に包み込まれる王都は、きらめいて見えた。  少し強い風が吹いて、帽子を飛ばそうとする。  慌てて帽子を掴んだ。 「綺麗だろう? 王都の全体を見渡すのには、ここが一番なんだ」 「はい、とても綺麗です」  帽子を押さえたまま思ったことを口にすると、エリオット殿下はうなずく。  彼は、本当にこの場所が好きなんだろうって思った。  ゲームの殿下と、現実の殿下はまるで違う人だ。……いや、それはわたくしが見ようとしていなかったから、そう思うのかもしれない。 「王族や貴族の結婚は義務だろう? 国王や王妃は一種の職業だ。だが、わたしは義務ではなく、職業でもなく、きみを望んでいる」 「エリオット殿下……」 「学園を卒業するまで、きみはどこか思い詰めた顔をしていた。だが、最近はそんなこともなくなり、素のきみを見られていると思う」
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