エリオット殿下とお忍びデート 5話

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 プロポーズ、としか思えない言葉をかけられて、わたくしの頭の中が真っ白になり――  ぽろり、と涙がこぼれ落ちた。  そのことに驚いたエリオット殿下が、わたくしの頬から手を離そうとする。  思わず帽子から手を離し、その手に自分の手を重ねた。  強い風が吹いて、帽子が飛ばされていく。 「――好きです。エリオット殿下が、好きです……!」  伝えなくてはいけないと思った。  わたくしばかり、エリオット殿下から気持ちをいただいているから……  殿下は、わたくしの言葉に大きく目を見開いて、それからくしゃりと泣きそうな表情を浮かべて、そっと額を重ねた。 「……ありがとう」  泣きそうな声で伝えられて、わたくしは何度も自分の気持ちを彼に伝える。  どのくらい、そうしていたのかわからない。ただ、一瞬のようにも永遠のように長い時間にも思えた。 「……帰ろうか」 「……はい」  ただ、帰る前にエリオット殿下がわたくしの唇の自分の唇を重ねる。  びっくりして目を丸くすると、悪戯が成功したかのように微笑まれた。  ……その表情があまりにも格好良くて、ずるいなぁなんて思ってしまった。  後日、あの日飛ばされた帽子はわたくしのもとまで戻ってきた。殿下からいただいた帽子だから、本当はすごく気がかりだったのだけど……  探す暇がなかった。それを、殿下の護衛が見つけて、わたくしまで持ってきてくれたのだ。  お忍び、とはいえ……やっぱり護衛はついてきていたみたい。  護衛のひとりに「とても感動しました!」と明るく伝えられ、思わず「わ、忘れてください……!」と必死になった。  エリノーラからも詳しく! と詰め寄られた。  お忍びといっても、わたくしたちのことに気付いた人たちもいるようで、とても仲が良い婚約者として国民たちに知られるようになった。  その評判にエリオット殿下は満足しているようで、上機嫌そうだった。  ……まさか、それが目的でデートに誘ったとか……ない、よね? ―Fin―
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