選ばれたのは……

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 どうして今、やっと立ち直った今、ケードリック様は現れたのだろう。  震える手で私はマルクスの袖をぎゅっと掴む。 「何を、しに、ケードリック様はこちらにお見えになったのですか。花嫁選びは終わったのでしょう。この期に及んでやっぱりガーネットが良かった、だなんて言いませんよね」  私が何も語らずとも、マルクスが全て代弁してくれる。 「いや、その通りだ。私は結局あの場では誰にも結婚を申込まなかった。だからと言って、それが言い訳になるという事でもないが……」  その通り、とは?  私がそっとマルクスの影から顔を出す。 「ガーネット、僕にもう一度チャンスをくれないか。ガーネットの本来の姿が見られなかったのであれば、見に行けばいい。そう思って今日から3週間、ブックヴェール伯爵家で過ごさせてもらえるよう伯爵にお願いしたんだ」 「3週間!?」私は思わずマルクスの影から飛び出した。 「両親だけでなく、料理長を始めとした使用人たちに叱られたよ。どうして自分が断ったくせに断られたような顔をしているんだって。傷ついたのはガーネットで、僕はただ拗ねているだけなんだと」  気恥ずかしそうに言いながら、ケードリック様は私の手を取り、軽く引き寄せた。 「ガーネット、もしまだ僕に望みがあるのなら、沢山教えてくれないか。ガーネットの大切な場所や風景、守りたい人達。教えながら僕という人物をまた見極めて欲しい。ガーネットの夫として相応しいか、一生を共に過ごしていけるか……」ぎゅっと掴んだ手に力が入る。 「はい、沢山、沢山知ってください。ガーネットという人物を、たくさん知って貰いたいです」私は涙を流して答えた。  マルクスは「それでもガーネットの猫っかぶりは簡単にやめられないだろうけどな」と私をからかった。 「マルクス、うるさいっ!猫っかぶりは恋する乙女にとって、自然現象なのっ!」思わず発した私の発言に、ケードリック様は大いに喜んでくれた。
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