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「ガーネット、もうお客様はお帰りになってしまったよ」
応接室にいたお父様はため息をつく。
「申し訳ございません。それで、あの、先程のお客様というのは」
私は胸の高まりを抑えながら、冷静さを装いお父様の返答を待った。
「この国の東に位置する、ノーベルト辺境伯のご嫡男ケードリック様だ。ケードリック様直々に、ガーネットを花嫁候補として屋敷へ招待したいと打診してみえた」
―――花嫁候補!!
私はその言葉ひとつで部屋中を駆け巡りたい衝動にかられたが、話の続きを聞くために精一杯自分自身を抑えた。
……どうしてもニヤけた表情だけは、抑えきれなかったが。
「しかしな、お断りしようと思っている」
「は!?どうしてですか!」
「招待されるのは、お前を含む上・中流貴族の年頃のご令嬢6人。1カ月後、3週間ほどノーベルト辺境伯の屋敷で過ごし、その中から1人を選ぶというのだ」
ノーベルト辺境伯の領土は王都から遠く、滅多に辺境伯が登城することが無いため人と関わることが少なく、出会いも紹介もない辺境伯自身が結婚の際はお相手を選ぶのに苦労したという。そのため息子にはそのような苦労をかけたくないとの思いで、適齢期の令嬢を他の貴族から紹介してもらったという。
3週間という時間をかけて、お互いに結婚相手に相応しいか見極めるとのこと。
自然豊かで美しい領土であるため、ちょっとした旅行気分で過ごしてもらえればよいとの事だが……。
「考えてみろ、侯・公爵家のご令嬢方だぞ。きっとどなたも気品があって教養もあって、辺境伯の妻に相応しいに決まっている。素材の美しさにおいてはウチのガーネットは引けを取らないとは思うが……」
こんな時でも真面目な顔で、親バカぶりを発揮するお父様。
「とにかくだ。そんな中で3週間も過ごせば、お前が恥をかくに決まっている。そうだ、やはりお断りしよう。王命というわけではないのだから……」
「嫌です」
今まで「結婚なんてせずにずっとこのまま家にいたい」と宣言していた私が乗り気という事に驚いたのか、お父様は目を丸くしてこちらを向いた。
「私、ケードリック様と結婚したいです。そのためなら気品でも教養でもなんでも身につけてみせます!」
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