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私は家庭教師にお願いして、辺境伯夫人としての最低限の知識やマナーを身につけさせてもらった。
「アピールポイントを作っておくのも有効かもしれませんね」
私が得意な事といえば、木登り、土いじり、泳ぎ、掃除、料理。
それは使用人や庶民のやる事だと呆れられ、刺繍や社交ダンス、歌、お化粧のレッスンも行った。
修道院で普段から繕い物をしているので刺繍なんて楽勝と思っていたが、どうも私には絵画的センスが欠落しているらしい。
それでも1カ月かけて薔薇が松明に見えるまで成長した。
歌に関しては、童謡をよく歌って聞かせていたためか発声が良いと褒められた。披露する用に、童謡以外で1曲だけを猛練習することになった。
社交ダンスはマルクスを相手に練習をした。私同様マルクスもまだ社交の場には出ていないが、ダンスが上手く、良い練習相手となってくれた。
「本当に……ノーベルト辺境伯へ嫁ぐつもりなのか?」とマルクスが心配そうに聞いてくる。
「そうよ。あの馬車の主がケードリック様かはわからないけど……もしそうならいいなって思っているわ」
「……村の子供たちが悲しむだろうな」とマルクスが呟いた。
「私だって寂しい。辺境伯の領土は遠いから、そうそう実家へも帰れないだろうし。だけど、きっと皆はわかってくれるわよ」
私だっていつまでもこのままでいられたらと思っていたけど、やはりいつかはどこかに嫁ぐ、それは伯爵家の令嬢としての責務なのだとわかっている。
「もしダメだったら俺が骨を拾ってやるから、全力で勝負して来いよ」
普段なら、嫁に貰ってくれるのかと笑い飛ばすところをグッと堪えた。
マルクスの優しさを無碍にしてはいけない。
「全力で勝負したら、お転婆なのがバレてしまうわ。素敵な辺境伯夫人になれるように、お淑やか路線でいくんだから」
マルクスはツンとすまし顔をする私を見つめ、ふっと笑った。
「猫っかぶりめ」
上等です。猫っかぶり、始めましょう。
何と言われようと、私は本気なのです。
この恋、絶対に成就させたいのです……!
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