ピザ・タンバリン湿原

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ピザ・タンバリン湿原

私は、また来てしまった。 不味いモンブランを食べさせられた、 あの喫茶店に。 店の中を覗いて見ると、お客が三人。 何やら、三人同じ物を食べているみたいだ …またもや、試食実験… と、知ってはいたが、 覚悟を決めて店に入った。 店内には映画音楽が静かに流れ、 甘い匂いが私の鼻腔に届いてた。 食欲を呼び起こす甘い香り。 「いらっしゃませ。 今日は弊社が創作した自慢のケーキを無料で提供する 月に一度のメモリアルデーです」 と、店員の声に力がみなぎっている。 と、差し出されのは、ピザの様であるが、 ピザでは無く、トッピングが乗っていない。 その代わりに ドス黒いヘドロの様な液体が掛かっている。 「この食べ物の名前は、タンバリン湿原です。 湿原の様に見えるのは、弊社で開発した ジャムです。どうぞお召し上がりください。」 と、言われたが、見た目に不味そうだ。 この前のモンブランは見た目は、 美味しいそうだったが不味かった。 だが、今回は見た目からも不味そうだ。 しかし、店に入ったからには、 試食せずに帰っては、男がすたる。 「据え膳食わぬは男の恥」 と、ばかりに、一口食べた。 「不味い、う〜ん不味い、う〜んマンダム」 と、悲鳴に似た声。 「お客さん様、美味しくありませんか🎵」 と、弾んでいる声は店員だ。 「お〜い、これも失敗作だぞ!」 と、パテシエに言う声がとっても楽しそう。 「失敗は、成功の元だ!次のを考えろ」 と、僕の耳元で叫んでいる。 「お客様、もう一口食べていただき、ご感想を」 …こんな物、食えるか!… 心から叫びたかった。 だが、お腹を減らし、お金の無い僕には 文句は言えない。 毒では無いのだ! 我慢して食べるしか無い。 そう、私はフリーター。 今は無職のフリーター。 悲しみいっぱいの、無職者。
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