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昨日からの寒波で吹雪になり、どんどん雪が積もった。日の暮れた夕方になっても曇るフロントガラスのから、吹田麻里子は暗闇に浮かぶ信号機を眺めた。軽自動車を走らせ、車から降りてスライドドアを開けて荷物を取り出し、玄関席へ向かった。
「また、不在!? 時間指定で届けてんのに、ふざけんな!」
そう吐き捨るように言って荷物を持ち車に戻った。麻里子は短期でお歳暮の配送業務のバイトをしていた。最初の二日間は問題なかったが、三日目の今日は件数が増えた上に悪天候に見舞われ、配達は難航した。慣れない道をナビを頼りに、麻里子は愚痴や弱音を吐きながら、一軒一軒、地道に商品を配達していった。
「こんなバイトなんかしなきゃよかった・・・!」
配達は遅々として進まなかった。会社から追加の荷物があるという連絡が来て、麻里子は配送拠点に一度戻った。麻里子は追加で割り当てられた荷物を車に積み込みながら、隣で作業している青年に愚痴をこぼした。
「この雪で、配達が全然進まないんですよ。追加であと50件もある。配達が遅れるとお客さんにも怒られて、もう散々です・・・」
「あーあ、髪が濡れてぐちゃぐちゃだね。新人さんでしょ? いきなりこんな量を振り分けるなんてひどい会社だ。ベテランだって大変だよ」
「そうなん?」
「人手不足なのに俺たち下っ端に全部押し付けやがって。あー、時間まであと何件なら配達できる?」
「実際、25件ってとこです」
「じゃあ半分よこしな。俺が配達しといてやるよ。もちろんおたくが配達したことにしとくからさ」
「え? いいんですか?!」
「いいからよこしな。客にも迷惑はかけられない。とにかく、配達を終わらせなきゃ」
「さすが、現場の社員さんはすごいですね!」
「俺も、バイトだよ、短期の。おたくと一緒」
「え?」
青年が麻里子の車からごそっと荷物を取りだした。
「ありがとう。『泉沢』さん」
麻里子は青年のネームプレートを一瞥して言った。
「おたくは、『吹田』さんね。気を付けて頑張って。あ、一応携帯の番号を教えてよ」
「はい」
二人はそれぞれの車に乗り込むと、吹雪に向かって車を発進させた。麻里子は今日の仕事を最後に、バイトを辞めた。
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