51人が本棚に入れています
本棚に追加
色々あったが、無事に荒川と付き合えた。あのバカさえ、いなければ簡単だったと思うが。
鼻歌を歌って、仕事しているバカを睨んだ。その視線に気がついたのか、直ぐに目を逸らしていた。
こんな奴のことは、どうでもいいか。目の前で、熱心に仕事している彼氏を見つめる。
本当にカッコよくて、モテるだろうなと不安になった。こいつが本気で、僕のことを好きなのは分かっている。
だけど、不安なのは変わらない。見つめていると、不意に目が合った。
「どうした」
「な、んでもない」
「そうか」
優しく微笑まれて、急激に恥ずかしくなった。ほんと、僕はこいつの顔が好きだ。
もちろん、優しいところも世話好きなところも全て好きだ。だけどやっぱり、輪郭が好きだし体格も好きだ。
自分にないからか、がっしりした人が好みだ。だからか、身を寄せて合っていると安心してしまう。
「お前、隆弘の近くをうろちょろするな」
「お前には、関係ない」
「んだと」
「僕と荒川は付き合っている」
この頃、度々こうやって永井に呼び出される。決まって荒川が、いない時にだ。
前までは、ただただ萎縮しているだけだった。しかし今は、僕たちは恋人同士になった。
こんな奴に、構っている暇はない。僕が告げた言葉で、永井は放心状態になった。
「う……そ」
「本当だ。疑うのなら、荒川に聞いてみろ」
僕の言葉に、肩を落としてその場を後にした。正直、怖くて泣きそうになった。
それでも僕には、荒川がいてくれる。心強くて、頼りになる最高の彼氏がいる。
それだけで、僕には勇気が湧いてくる。あんな奴には、絶対に負けない。
先日の席替えで、隣の席になった。授業中に、チラ見してしまう。完全に集中力が落ちたような気がする。
それでも、勉強を教えたい。学部が違ったとしても、同じ大学に通いたいからだ。
「ほら、食べろ」
「ああ……美味い」
「そうか! 初めて作ったんだよ」
卵焼きを食べさせると、喜んでくれた。他にもおかずを作ったから、満足してもらえると嬉しい。
自分でも驚くくらいに、不器用なようで左手を怪我してしまった。荒川の近くにいると、途端に気持ちが和らいでいく。
「んだよ」
「俺の彼氏は、可愛いなって」
「……可愛くない」
「可愛いよ。全部が」
僕のこと可愛いって言うけど、どこも可愛くないだろう。それでも本気で言ってくれていて、嬉しくなってしまう。
いつもの通りに、キスをして昼休みが終わった。最初はざらざらしていた唇も、今ではツヤツヤになってきている。
血が出たら、痛いからな。怪我して欲しくないから、リップクリームをつけている。
「先生に呼ばれたから、言ってくる。先に帰っても」
「いいよ。待ってる」
「そうか、分かった」
名残惜しかったが、直ぐに職員室に向かった。用事も早々に済まして、足早に教室へと向かった。
すると教室からは、暗い顔をした永井が出てきた。僕に気がつかないのか、何も言わずに通り過ぎた。
「はあ……」
「待たせたな」
机に項垂れて、ため息をついていた。前の席に座って、同じ目線になり見つめ合った。
「一目惚れって言っていたが、いつ好きになったんだ」
「そ……んなこと、どうでもいいだろ」
「聞きたい」
恥ずかしかったが、聞きたそうにしていた。若干上目遣いになっていて、詳しく話してしまった。
桜の木の下で、目が合ったことを覚えているらしい。嬉しくなって、全身が沸騰するような感覚に陥った。
「ふぁ……い、きなり……抱きつくな」
「ほんと、俺の彼氏は可愛いな」
「かわ……くない」
「可愛いよ」
僕のどこが可愛いのか、全くもって理解できない。早いもので、期末テストが始まった。
隣から視線を感じて、集中できない。そう思っていると、先生に怒られてしまったようだ。
「ゴホンッ……荒川、よそ見はしないように」
「はい……」
頭が痛くなって、つい睨んでしまう。もし変なミスしてみろ、本気で鍛え直してやる。
無事に期末が終わって、僕は安定の一位。隆弘は三十位で、前回より成績が良くなった。
少しミスはあったが、許容範囲内だった。連れて行きたいところがあると、言われた。
素直に着いていくと、ファーストフードだった。聞けば、デートがしたかったらしい。
僕はお前となら、どこだってデートだと思っていた。それでも、そんなにはっきり言ってもらえて嬉しかった。
エビバーガーを食べていると、口元に手を伸ばされた。その仕草が綺麗で、つい見惚れてしまう。
「んだよ」
「別に、本当に可愛いなって」
「う、煩い! 早く食べろ!」
「あー、はいはい」
彼氏との初デートは、思っていたよりも楽しい。この時間がいつまでも、続けばいいと思っていた。
しかし、荒川は知り合いに声をかけられた。仲が悪いようで、完全に拒絶していた。
それなのに、全く気にしていない様子だった。どう見たって、荒川は嫌がっているだろ。
なんで、それが分からない。内心イライラしつつも、釘を刺すわけにはいかない。
「お前らに連絡する必要がない」
「冷たっ」
「見て分かんないか。デートの邪魔をするな」
荒川は真面目な顔で言ってくれて、嬉しかった。それなのに、こいつらは爆笑し始めた。
何がおかしいんだよ。僕が荒川みたいなモテ男と付き合っているのが、そんなにおかしいのかよ。
イライラして、糖分が欲しくなった。でも紅茶だから、足りない。
「山城、行こう」
「あっ、いいのか」
「いいんだ。俺はこいつらと、話したくない」
荒川は僕の手を掴んで、歩き出した。しかし直ぐに、耳を疑う言葉を聞いてしまった。
三人のうちの女子が、荒川の元カノだったらしい。聞きたくなかった……知りたくなかった。
「嘘じゃねーよ。俺と山城は付き合ってる。それにお前らに、何かを言われる筋合いはない」
堂々と言っていて、本当にカッコいい。僕のために言ってくれて、涙が出そうになった。
それなのに、またもや爆笑し始める。キレそうになってしまうが、公共の場で起こるわけにはいかない。
荒川の方が僕よりも、先に限界を迎えたようだった。思わず、制服の裾を掴んで静止した。
こんな奴らに構っていると、学校の評判を落としかねない。例え、相手が最低野郎だとしてもだ。
「あー、その……勝手に言ってわるか」
「別にその件に関してはいい。そんなことよりも、ここは片づけなくてもいいのか」
付き合っていることを言うのは、別に構わない。そんなこと、気にする必要はない。
俺のことを褒めてくれて、手を繋いでその場を後にした。この後どうなるか、分からない。
しかし周りから、完全に睨まれていた。僕らには、関係ないけどね。
最初のコメントを投稿しよう!