第五章 side美涼

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 こんな奴らのせいで、楽しい時間が台無しになってしまった。腹が立って、飴玉で糖分補給した。 「荒川が……自分を責める必要はないからな」 「はあ……そんなことな」 「やっぱ、責めてたか」  家に着いて部屋に行って、後ろから抱きしめた。優しいこいつのことだから、自分を責めていると思っていた。  悪いのはあいつらであって、お前じゃないからな。優しく抱きしめられて、顔を見せ合った。  首に腕を回して、キスをした。ベッドに押し倒されて、首筋にキスをされた。  僕がお願いすると、激しいキスをしてくれた。これをされると、体の力が抜けて行ってしまう。 「んっ……違っ……んあっ」  恥ずかしいが、声が漏れてしまう。それ以上に、求められるのが嬉しくなってしまう。  イチャイチャしていると、妹さんが入ってきた。いつもの如く、怒られてしまう。  でも何となくだけど、この状況を喜んでいるように見える。気のせいで、あってほしいと願うことしかできない。 「遊園地、遊園地」 「あまりはしゃぐと、転ぶぞ」 「僕はそんな子供じゃない」 「子供並みに、はしゃいでいるけどな」  夏休みに入って、僕たちは遊園地に遊びに来た。はしゃぎすぎて、自分のことしか考えてなかった。  初めて彼氏との、遊園地デートで舞い上がってしまった。完全に疲弊してしまったようで、自責の念に駆られてしまう。  ベンチに寝かして、膝枕をした。頭を撫でると、少し顔色がよくなったようだ。 「その……ごめん。ついはしゃい……ゴホンッ、気が付かなくて」 「いいんだよ。お前が楽しんでくれれば」 「荒川、ありがとな。でも、二人で楽しまないと」 「山城……」  疲れていたようで、食い気味で寝たいようだった。素直に甘えてくれて、僕は嬉しかった。  何故か路地に連れて行かれて、キスをされた。人通りが少なかったが、子供に見られてしまった。  恥ずかしかったが、とても充実している。それから、予約していたレストランに向かった。 「すみません。予約していた山城です」 「はい、承っております」  ここは父さんが、行きつけのお店だ。詳しくは知らないけど、セレブ御用達になっている。  平然としているが、初めて来るお店で心臓が破裂しそうだ。緊張のあまり、変なことをしないように気をつけないとな。  遊園地の敷地内にあるが、遊園地に行かなくても入れるようになっている。  荒川は、右足と右手を一緒に動かしている。その様子が可愛くて、緊張が解れてしまう。 「あ、のさ……ここ、お高いだろ」 「んー、そうでもないぞ。ほら」  何も驚いていないように、メニューを見せた。ここで慌てると、カッコ悪いからな。  昨日父さんから、「荒川さんの息子さんに、何か美味しい物でも食べさせなさい」連絡があった。  電話でもなく、メッセージアプリからだった。久々に連絡しておいて、それだけかよ。  そう思ったが、思いっきりその言葉に甘えることにした。いつもお世話になりっぱなしで、何も返せてないからな。 「後で返すから、今は頼む。お土産代とかもあるし」 「いい。今日は奢りだ」 「でもな……そんなわけには」 「別に構わない。気にするな」  父さんが、いいって言っている。これ以上、変に気を遣わせたくない。  こいつは、大雑把に見えて繊細なところがある。今日ぐらいは、何も考えずに遊んでほしい。  レストランでお腹を満たしてから、次の目的地へと向かった。メリーゴーランド、昔母さんと乗ったな。 「あのさ……俺は外で見て」 「乗りたくないのか……お前と乗りたかった」 「……分かったよ」  楽しかったが、今では嫌な思い出になってしまった。だからこそ、お前との思い出に変えたい。  辛かったことも、お前となら前に進んでいけるから。思っていたよりも、風が気持ちいい。 「楽しいな」 「そ、りゃあ良かった……」 「楽しくないのか……」 「わあ、楽しいなあー」  楽しくないようで、悲しくなってしまう。するとわざとらしく、喜んでいた。  それから、色んなアトラクションに乗った。完全にヤケクソで、楽しんでいる様子が面白かった。  お化けのところに行くことになって、内心震えていた。荒川が乗りたいのなら、頑張ろうと思う。  お化けなんて、非科学的なものは全然怖くない。全然怖くないったら、怖くないんだ。 「ウギャアア!」 「山城さん?」 「怖い!」  怖すぎて、自我を失っていた。荒川にひっついて、絶叫してしまう。  頭を撫でてくれて、恐怖が和らいでいった。嬉しくなって、甘えてしまう。 「絶叫じゃない。あれは、発声練習だ」 「まあ、そういうことにしておこうか」  アイスを食べていると、前にも来たことがあったことを知った。元カノと、一緒に来たのだろうか。  分かっていても、嫉妬してしまう。僕は自分でも思っているよりもずっと、荒川が好きらしい。 「あのさ、何かあったのか」 「あっ、どうして」 「何か、考えてたみたいだから」  思っていることを告げると、本当のことを教えてくれた。自分の気持ちが、こんなにも大きくなっている。  昔のことなんて、気にする必要はない。頭では分かっていても、どうしても割り切れない。  家族と来たのを知って、急激に恥ずかしくなった。自分がこんなに、嫉妬深いなんて知らなかった。 「……わ、忘れてくれ」 「忘れないよ。山城の貴重な嫉妬だもん」  僕の嫉妬で、嬉しそうにしてくれた。そのことが嬉しくて、恥ずかしくなった。  熱を冷ますために、残りのアイスを一気食いした。頭がキーンとして、痛かった。  食べ終わった後は、手を繋いでのんびりしていた。この時間が、ずっと続けばいいのに。 「あれ? 山城だ〜」 「お前みたいなのが、遊園地とか」 「ウケんな〜」  楽しい時間は、直ぐに終わってしまった。中学の同級生に声をかけられて、胸が痛くなった。  忘れたい過去を、強制的に思い出させてくる。嫌いだったら、何で話しかけてくるんだろ。  放っておいてほしい。ただ男が好きってだけで、惨めな思いをしてしまう。  いじめられていたことも、無視されたていたことも。こいつにだけは、知られたくない。  ――――嫌われたくない。  荒川は僕を抱きしめてくれて、優しく微笑んでくれた。それだけのことで、少し落ち着いてしまう。 「何? オタクら、付き合ってんの?」 「ウケんだけど〜」 「小嶋、コイツらマジかもよ〜」 「うわっ、睨んでんもんな」  小嶋のこと、ただ見た目で好きになってしまった。好きでいたかっただけで、それ以上なんて求めていなかった。  それなのに、まだ僕のことを嫌っているのかよ。ただの片思いだったのに、こんな人気の多いところで暴露されてしまった。  ――――それ以上に、荒川には知られたくなかった。
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