第五章 side美涼

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「待てよ。俺のこと、好きだっただろ? それなのに、もう他の奴見つけてんのかよ」 「手早いな〜」 「マジ、ウケんだけど〜」  知られてしまった。もう小嶋のことなんて、何とも思っていない。  中学一年の時の片思いを、まだ言われるのかよ。バカにされたあの日に、お前への気持ちなんてなくなったのに。  震える体を、荒川は抱きしめてくれた。何か言いたそうだったけど、必死に我慢しているみたいだった。  悲しい気持ちよりも、嬉しい気持ちの方が大きかった。僕のために、我慢してくれている。  こいつは、お前らなんかとは違う。少しすれ違ってしまったけど、僕に愛情を教えてくれた。 「ここまで言われても、何もできないとか。カッコわる」  僕のことだけでなくて、荒川のことまでもバカにしている。なんで、そこまで同性を好きになるのがダメなことなのかよ。  ニヤニヤと嘲笑いながら、僕のことをいじめていたと言っていた。こんな大勢いるところで、そんなこと言えるよな。 「……なんだって」 「彼氏さん? ププッ……そいつはね、中学の時にゲイバレしてハブられていたんだよ」  こいつら、マジかよ……少しは、人目を気にしろよ。僕はお前らがどう思われようが、知ったこっちゃない。  そんなことよりも、荒川にバレたことの方が一大事だ。こいつのことだから、内心腹を立てているに違いない。  普段は優しいけど、怒るとマジで怖いから。それでも、荒川は僕のことを気遣ってくれている。  最高の彼氏だって言ってくれるけど、こいつの方が何百倍も最高だよ。 「男同士ってだけで、気持ちわる」 「あのさ、今デートしてるんだが。見て分かんないのか? それとも、それぐらいも分かんないぐらいのバカなのか」  散々言っても、理解してくれない。やっぱり、バカ相手に何を言っても無駄のようだ。  ――――それ以上に、好きな人バカにされて黙っていられない。  僕だけなら、我慢すればいいだけのことだ。今までもそうしてきたし、これからも変わらないだろう。  だけど、荒川のことだけは傷つけたくない。悲しむ顔よりも、笑った顔が見たいから。 「美涼は、俺と付き合っている。お前には関係ない」  凄くナチュラルに、名前で呼んでくれた。そのことが嬉しくて、嫌な感情が全て消えてしまった。  本当にこいつは、不思議な奴だ。優しくてカッコよくて、本当に僕には勿体無い彼氏だよ。  小嶋たちはそそくさと、その場を後にした。そこで急に安心したからか、倒れそうになった。  咄嗟に、荒川に抱きついた。周りから、拍手喝采が降り注いだ。恥ずかしくなって、空いていた観覧車に逃げ込んだ。 「その……さっきの奴のこと、好きだったのか」 「ああ……あくまでも、過去形(だった)だ」  聞かれたくなかった。他の奴ならどうでもいい。  ――――荒川にだけは、知られたくなかった。  隣に座ってくれて、思わず抱きしめた。お前といると、心のつっかえがなくなるような気がする。  恋って不思議なもので、辛い時も悲しい時もある。だけどそれ以上に、この人に出会えて良かって心から思えるんだ。  お前に出会えたから、知ることができた。どれだけ伝えても、伝えきれないよ。  それから僕の家に向かって、エロいことをすることになった。道中、僕は気が気じゃなかった。  買い物中も心臓が煩くて、話を半分聞いていなかった。緊張し過ぎていると、よくない 「タコライスって、食べたことあるか」 「初めてだ」 「俺も、楽しみだな」  いきなり抱きつかれて、変な声を出してしまった。もう恥ずかし過ぎて、どうにかなりそりそうだった。  荒川はいつも通りで、慣れているんだろうなって悲しくなった。  しかも、話聞いていなかったからほうれん草を買っていた。タコライスはいいけど、ほうれん草は食べたくない。 「美味いか」 「美味しい……ほうれん草」 「コンソメにしたし、美味いぞ」  思っていたよりも、美味しかった。でもそれは、彼氏の愛情がこもっているからだろう。  しかしどことなく、元気がないように見えた。いつもいつも、僕のために色々としてくれている。  いつだって、僕も役に立ちたい。僕にできることは、勉強以外ないから。  少しづつでも、家庭のことをできるようになりたい。僕だって、してもらってばかりは嫌だから。 「何を考えているか、知らないが……僕はそんなところも含めて、た……かひろがす」 「なんで、そんなに可愛いんだよ」  よく分かんないけど、悲しそうだった。僕が意を決して名前で呼ぼうとすると、キスをされた。  いつもよりも、気持ちよくてずっとしていたいって思えた。恥ずかしかったけど、お互いに名前を呼ぶことになった。  お風呂に入ることになって、食器を洗った。色々と準備があるから、先に風呂に行った。 「はあ……えっと……入る気がしない」  男同士の仕方をネットで検索した。マジか……間違いなく自分は、受ける側だろうと思った。  それはいいんだけど、自分でこれ以上は無理だと結論づけた。後はもう、知らん。たか……ひろに、任せよう。  気にしないことにして、頭と体を洗った。準備ができたから、お風呂に呼んだ。 「おい、こっちを向け」 「勘弁してください」 「ふざけていないで、こっちを見ろ」 「……下半身が痛いから、見るな」  体を洗おうとしたのに、言うことを聞いてくれない。そこで下半身は、反応しているみたいだった。  いつも通りにしているのに、そんなことないみたいで安心してしまった。  とてつもなく、恥ずかしいことをした。僕だけでなく、隆弘も初めてだったみたい。  それが分かって、とても嬉しかった。それからというもの、あの快楽を忘れることが 「何かあるのか?」 「……僕の誕生日だから」  最後に誕生日を祝ってもらったのって、いつだろうか。どうしても、祝ってほしい。  隆弘のお父さんの浴衣を、借りることになった。そんな大事なもの、僕が着てもいいのかな。  仮初でも、家族だと思ってくれている。そのことが嬉しくて、浮き足立ってしまう。 「美涼、何食べたい?」 「たこ焼きと焼きそばと焼きそば」  驚かれたけど、色々な物を食べてみたい。お祭りなんて、いつぶりだろうか。  小さい時は、そんなに食べられなかったから。今は色々な物を食べて、隆弘と時間を共にしたい。  お前といると、時間が経過するのがあっという間だ。本当に楽しくて、周りのことを忘れていた。 「あれ? 委員長に、荒川」 「お前らって、本当に仲良いよな」  ここは学校からも近くて、知り合いに会う事もある。そのことをすっかり、忘れていた。
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