第五章 side美涼

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 永井が僕を見て、睨んできた。どんなに凄まれても、全然怖くない。  隣には僕のことを、守ってくれる彼氏がいるから。まあでも、できるだけ波風立てたくない。  大切な幼なじみだろうから、仲違いしてほしくない。それに僕はいいけど、こいつはゲイだって思われたくないだろう。  嫌な思いはしたくないだろうから、付き合っていることは黙っていた方がいい。 「手、繋いでどうしたんだ」 「これは、つき」 「僕が具合悪くて、支えてもらった」 「あー、なるほどね」  咄嗟に嘘をついたけど、これでいいよな。永井は知っているが、流石に学校の連中にバレるわけにはいかない。  だけどそれから、様子がおかしかった。いつも僕の歩くスピードに、合わせてくれている。  ツカツカと歩いて行ってしまって、何とか頑張って追いついた。人混みを避けて、高台に連れて行かれた。 「美涼は守ってほしくないのか」 「守ってもらうのは、素直に嬉しい……だけど、お前が自分のことを犠牲するのは違うだろ」 「犠牲になんて」 「お前にそんなつもりないのは、分かってる。だからこそ、辛いんだ」  こいつの優しさは、心の底から出ているものだ。こいつにとっては、何気ないことだろう。  それでも普通は、いつか疲れてしまう。そうなる前に、無理はやめてほしい。  お前が僕に、無理してほしくないのと同じだ。僕だって好きな人に、無理をしてほしくない。  優しくキスをすると、花火が上がったようだ。いつもは、ベランダから見ていた。  綺麗だなんて、思ったこともなかった。好きな人と見ると、こんなにも美しく見えるのか。 「綺麗だ」 「……隆弘、僕はお前と対等でありたい」 「俺もだよ……だけど、俺は守りたいって思うんだ」  優しくキスをして、僕たちは抱きしめ合った。何故か泣いていて、胸が苦しくなった。  僕が思っているよりも、隆弘は弱いのかもしれない。考えてみたら、僕たちはまだ子供だ。  必死に強くあろうと、努力していた。それは佑くんも、玲奈ちゃんも気がついている。  でもなんて、声をかけたらいいのか分からない。大事だからこそ、大切だからこそ言えない。 「俺は親父がいなくなってから、ずっと守ることしか考えなかった」 「辛かったよな」 「辛くないって言ったら、嘘になるな」  辛くて泣きそうになっても、お前がいてくれる。それだけで、僕は強くなれるんだ。  僕は誰かを、支えることに慣れていない。隆弘は支えられるよりも、支える方が好きなのだろう。  でもそれは、家族のためになんだよな。本当に優しくて、脆くて儚い。  隆弘は、自分が重いかどうかを気にしているようだった。そんなこと気にしなくていい。  それぐらい、僕のことを好きっていうことなのだから。僕だって多分、重い方だと思うし。 「確かにお前は、バカで後先考えずに突っ走ってしまう」 「酷い……」 「だけど……誰よりも、優しくて繊細で傷つきやすい。本当は悲しいのに、泣くのを我慢している」  泣きそうになっている隆弘の頬を触って、優しく微笑んだ。僕はそんなお前が好きなんだ。  優しくキスをして、抱きしめ合った。花火が上がって、お互いに顔を見つめ合っていた。  誕生日プレゼントとして、お揃いのネックレスをもらった。本当に嬉しくて、抱きしめた。  お互いに、ネックレスを首にかけた。嬉しくて、泣きそうになってしまう。 「お前は、その……付き合っているって、言っていいのか」 「俺は構わない」 「ゲイって、バカにされてもか」 「そんなことを言う奴が、間違っている。同性でも異性でも、恋をするって奇跡だから」  気になっていることを聞いてみると、素直に答えてくれた。真っ直ぐで、カッコいい。  透き通った目で言ってくれて、僕は思っていた以上に、隆弘が好きみたいだ。  今までゲイってだけで、嫌なことがたくさんあった。告白された時に、僕の同じようなことを言ってしまった。  それでも、隆弘は構わないと言っていた。本当に優しくて、暖くて最高の彼氏だ。 「ほんと、もう少し早く会いたかったな」 「そうだな……僕ももっと早く、会いたかった」  話をしていると、本気でそう言ってくれた。もう少し早く出会っていれば、全てを解決することはできない。  だけど、お互いの心の隙間を埋めることはできた。恥ずかしくなるぐらいに、僕のことを優先してくれている。  そのことは素直に嬉しいけど、自分のことも大事にしてほしい。付き合っていることを、言っていいということになった。 「そういえば、このマンションって俺の家からだと遠いよな」 「なんだ、今更」 「それなのに、最初の頃は俺の家の近くまで来てたよな」 「……それは」  そんなことを、言われると思わなかった。少しでも一緒にいて、話をしたかった。  優しい隆弘は、疑問に思いつつも受け入れてくれた。考えてみたら、あのバカのせいで勘違いされていた。  それなのに、家族ぐるみで僕を受け入れてくれていた。本当に暖かい家庭で、僕が喉から手が出るほど欲しかったものだ。  お袋さんも佑くんも玲奈ちゃんも、普通に受け入れてくれている。 「少しでも長く、お前といたかったから」 「そうだったのか」  少し引かれるかなって思っていたけど、顔が真っ赤になっていた。  その様子が可愛くて、ほっこりしてしまった。部屋に到着したようで、ドアが開いた。 「あっ……父さん」 「美涼……久しぶりだな」  父さんと遭遇してしまった。久しぶりに見たけど、少し痩せたように見えた。  嫌な沈黙が訪れてしまうが、隆弘がその沈黙を破ってくれた。一人だけだったら、部屋に逃げていただろう。  だけど隆弘がいて、手を繋いでくれている。それだけで、強くなれるから不思議だ。  父さんに自己紹介をしている時に、父さんの視線が繋がれている手に注がれた。隆弘が離そうとしたから、咄嗟に強く握った。  父さんに誕生日おめでとうと言われたが、全く嬉しくなかった。直ぐに、またいなくなってしまった。  いつものことだから、気にする必要はない。僕の誕生日なんて、興味ないと思っていた。 「そうか……俺は何があっても、美涼の味方だからな」 「ああ、ありがとう」  それから色々な話をして、将来の話をした。僕たちは当たり前に、ずっと一緒にいられるのかな。  離れるなんて、絶対に嫌だ。隆弘はどう思っているのか、聞くのが怖い。  今はそんなこと、気にしなくていいか。でもいつか、僕たちの今後のことを話せたら嬉しい。  僕にくれた優しさと愛情を、それ以上に返すから。いつまでも、こうして二人で歩んで行きたい。
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