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「なぁ、リージェはなんで回復魔法ばっか鍛練するんだ?」
寝支度を済ませて布団に入ると、先に寝たとばかりに思っていたメルテがふと声をかけてくる。隣のベッドの膨らみがゆっくり動き、リージェの方へと身体の向きを変える。隠れていた顔が上掛けから覗いて、その赤い大きな双眸が瞬くリージェをまっすぐとらえた。
「……今更なんですか?」
一瞬動きを止めたリージェは、かち合った瞳に小さく笑った。
それはあなたが怪我ばかりするからです。
思っても口にはできない言葉を飲み込んで、リージェも普段通りに布団に入る。
「だって攻撃魔法を強化すれば、もっと勝ちやすくなるだろ」
「勝ちを急いではだめですよ」
仰向けに寝転がり、上掛けを引き上げる。無意識に胸元で手を組んでしまうのは、そうしてずっとメルテの無事を祈ってきた名残だった。リージェはそっと目を閉じる。
その日も朝から晩まで任務をこなし、物理的に飛び回るメルテはもとより、リージェもそれなりに消耗していた。
体力や頑丈さに定評のあるメルテに対し、リージェが長けているのは魔法の腕とその量だ。だが魔法を使うにも体力は使うため、それを鑑みるとリージェの方がより疲弊している日もあった。
「身体はもう少し鍛えないと、とは思います」
自分自身のためだけでなく、メルテの助けにもなるようもっとたくさん魔法を使いたいから。
魔法を使うための魔法力が尽きたことはなかったが、尽きるほど使える体力がリージェにはないのも確かだった。
「別に今のままでも、俺は十分すげぇと思ってるけど」
メルテがリージェの横顔を見つめたまま、僅かに首を傾げる。リージェは微睡みながらも静かに答えた。
「まだまだです。幸い、内包する魔法力の量はかなり多いらしいので……鍛えれば鍛えるほど、もっと使えるようになるはずですから」
「いや、でもさ。そんな限界まで魔法使えるように鍛えるなんて……そんなことしたらお前、マジでゴリラみたいになると思うけど」
その姿を想像したのか、複雑そうな顔をするメルテの気配に、リージェは呼気だけで笑う。
「いや、笑いごとじゃねぇから。せっかくそんな綺麗ななりなのに……」
俺とは違って、と自虐的にひとりごち、メルテもごろんと仰向けになる。
リージェは心の中で言い返す。
あなただってそんな愛らしいなりで、あんなふうに戦うくせに。
「……今のままでも、できるだろ、お前なら」
「考えておきます」
「それ結局やらねぇやつじゃん」
見慣れた天井を見上げたまま食い気味に言うメルテに、リージェはまた笑み混じりの呼気を漏らす。けれども次にはすとんと夢の中へと落ちていく。そんなリージェを一瞥し、メルテも追うように目を閉じた。
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