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実際のところ、リージェは攻撃魔法の腕も確かだった。集中して鍛練し、そして使う回数的に回復魔法や補助魔法が際立って見えるだけで、存外攻撃特化の魔法の方が強かったりもするのだ。
だがそれをそのまま使うには近接戦を得意とするメルテがある意味邪魔になり、巻き込んでしまう可能性もあるため踏み出せないところがあった。
それなら攻撃はメルテに任せて、後のことを自分がすればいい。どちらかといえば魔法が不得手なメルテと、魔法が得意なリージェが組んでいるのだ。それならばと、それこそがバディだという考えもリージェの中では根強かった。
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「これくらい、俺が……っ」
「ちょ、待って下さい、メルテ……!」
リージェの制止も聞かず、メルテは軽やかに飛び上がる。身を翻し、身体に見合った細身の剣を手慣れた所作で振り上げれば、躊躇うこともなく目標へと向けて一閃し、返すやいばがその首元をとらえる。人で言う鎖骨と鎖骨の間――核はそこに見えていた。
「っしゃ……!」
切っ先がまっすぐそれを薙ぐ。掠れた咆哮のような悲鳴が響いて、青い宝石のような核にひびが入る。その個体は悪魔型で、濡羽色の髪の毛が異常に長かった。
対象は一瞬仰け反り動きを止めた。だが次には生き物のように動くその髪がメルテへと伸びてくる。
風を切る音が遅れて耳に届く。速い。と同時に、翻るその隙間で何かが煌めく。
「メルテ!」
リージェが呼ぶが早いか、メルテは瞠目する。メルテは着地体勢に入っていたが、それより先に髪先が触れる。リージェの防護魔法も間に合わない。
ああ、だから言ったのに……! 思ったところで、後の祭りだ。
「い……っ!」
足首、手首へと次々に絡み付く髪がメルテを宙吊りにする。逆さまにされて揺さぶられ、目眩のする中、もったいぶるように対象の前へと掲げられた。
「くっそ……っ、なんで……!」
メルテはぎり、と歯噛みする。目を眇め、相手を鋭く睨み付ける。
だいたい、なんでまだ動けるんだ? 確かに核は壊したはずなのに。
ぎりぎりといっそう締め上げられて、腕に力が入らなくなる。痺れて脱力した指が勝手に開いて、まもなく握られていた剣が音を立てて地面に落ちる。
「メルテ……っ!」
メルテを盾にされていてはリージェもすぐには動けない。魔物はにたりと口角を上げ、メルテを自身の方へと引き寄せた。
「離せ……っ、あ……!」
魔物は意味のある言葉を発しない。魔王の呪いにより同胞でないものを恨んでいる生物だ。そこに嗜虐性がのっている場合もある。こいつはそういう性質らしい。
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