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メルテは術具である双剣を携え、国内外を飛び回っていた。けれどもリージェはというと、天性の魔法力の高さにより依頼の増えた魔法薬の研究と調合に追われ、森の奥に構えた自宅にほぼ引きこもっている状態だ。
そうして時に子供たちの家庭教師を請け負いながら、いつになるとも知れない同居人の帰りを待っている。昨夜のような事態にならなければいいと、心の中で常に祈りながら。
「……だめだわ」
顔を片手で覆ってうつむくと、肩上で切りそろえられた紺色の髪がはらりと流れる。
メルテは寝室のベッドですやすやと寝息を立てていた。リージェの調合した魔法薬の効果により眠りは深い。そしてメルテはもともと魔法が効きやすい体質だった。
「これはこれで、私の身がもたない……」
同じサイズのベッドが二つ、小ぶりなサイドボードを挟んで並べられている。サイドボードの上にはすずらん型のライトが置かれており、その柔らかな光が擦過傷の残るメルテの顔を照らし出していた。
「……メルテ……」
いつもは空っぽのベッドにメルテがいることは嬉しい。
現在リージェは十八、メルテは十九歳。最年少と言われる年齢で国家資格を取得し、揃って独立した年に一緒に暮らすことを決めて二年。けれども、ここ一年程は殆どリージェのみの一人暮らし状態だったから。
「はぁ……どうしよう」
いるはずの相手がいない生活は、どんなに慣れようとしても無理だった。いつだってメルテのことを考えていた。だから素直に嬉しかった。勝手に顔が綻んでしまうほどに。
だけどそれも束の間のことだ。数日経って怪我が治れば――もしかしたら治らなくても――メルテはまた行ってしまうだろう。
そう思うと胸が苦しくなる。
メルテが仕事に励むこと自体に反対はしない。自分だって同じリィンだ。この道が平坦でないことはわかっている。だけど少しはその身を省みることもしてほしいとどうしても思ってしまうのだ。
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