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「リージェ! リージェ!」
メルテが目を覚ましたらしい。そう何度も呼ばなくても聞こえるわ、と苦笑しながら、リージェはティーポットを片手にダイニングの扉が開くのを待った。
「俺の剣がねぇ!」
「そうですね」
「そうですねって!」
メルテがアトリエの方を指差し声を荒げる。反してリージェは、温めていたカップに魔法薬を垂らしたハーブティーを注ぎながら、ひとまず席に着くよう促すだけだった。
「どういうことだよ」
構わずメルテはずかずかとリージェの傍まで歩み寄り、なかば睨むようにその顔を見上げた。リージェは涼しい顔で答える。
「今朝方、鍛冶屋さんにお願いしておきました」
「鍛冶屋⁈」
「昨日また無茶したんでしょう。刃が思った以上に傷んでいて、私の魔法では修復しきれなかったのでいつものところに頼んでおきました」
もともと術具は定期的に手入れをしなければならない。少なくとも半年に一度はちゃんとした整備を受けるべきで、なのにメルテは時間がもったいないだのなんだのと言ってそれを怠りがちだった。そのためせめてもとリージェが修復魔法をかけていたのだが、昨夜はそれをしなかった。できないのではない。あえてやらなかったのだ。
リージェの魔法力は高く、基本はどんなことにも対応できる。だが術具に関してはどうしても正規の整備には劣るため、正直本意でないところもあった。それを理由にリージェは続ける。
「一年以上整備に出していなかったでしょう。だめですよ、あれはあなたの命にもかかわるものなんですから」
「別にまだ大丈夫だったのに」
「刃こぼれすごかったですよ。だからてこずったんじゃないですか。怪我した左手、引っかかって抜けなかったんでしょう」
そこを掴まれ、切り裂かれた。違いますか。
笑顔で平然と言い切るリージェに、メルテは言葉を詰まらせる。
図星だった。容易く振り抜けると思った刃が途中で止まり、リージェの言うとおりに反撃されたのだ。
包帯の巻かれた左腕を一瞥し、それでもと開いた唇も結局ははくはくと空気を食むだけに終わる。
「とりあえず、朝ごはんにしましょうか」
再度促され、メルテは大人しく席に着く。注がれたハーブティーの柔らかな香りが鼻先を擽った。
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