Prologue

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 +++ 「俺の剣、いつ帰ってくる?」 「ああ……。結構傷み方がひどいと言うことでしたし、長ければ一月以上かかるかもしれないとのことでしたよ」 「一月ィ⁈」  上げた声と共に、メルテはガタンと腰を浮かせてしまう。けれどもリージェは意に介したふうもなく、 「一応、もう一方は私の魔法でなんとかなりましたし、予備の術具を使えば仕事はできますよ」  と淡々と返しては目の前のタルトに視線を落とす。  今日の食後のティータイムに用意したのは季節のフルーツタルトにミルクたっぷりのカフェオレだ。メルテと一緒に食卓につくなんていつぶりだろうと思いながら、その好みに合わせて用意したのはリージェだった。 「予備の術具って、盾じゃねぇか」  リージェに続いて添えられていたフォークを手に取り、メルテも皿に目を向ける。  サクリと小気味よい音を立てて切り分けると、それを口に運んでから再びリージェの顔を見た。 「盾、上等じゃないですか。剣と盾は最初にあなたが選んだ術具だったでしょう。防御力も上がって、怪我も減ります」 「でもその分攻撃力が下がるし、……重い」 「少しだけなら、魔法で軽くしてあげます」  メルテは身体が小さいこともあり、経年につれて術具は軽いものを選ぶようになっていた。だが軽すぎるものも問題なのだ。術具が軽くなるとそれだけ素早く動けはするが、与えられるダメージも浅くなる。その分より的確に急所を突く必要が出てくるため、どうしても対象との距離が近くなってしまう。  その上二刀流を選んでいるメルテは、反撃された際に自分を守るものがない。技術はそれなりにあるため、剣そのもので受け流すことはあるものの、そうなると今度は刃こぼれしやすくなるし、衝撃で一緒に吹き飛んでしまうこともざらだった。  リージェはそれが嫌だった。リージェの身体に、傷が増えるのが本当に嫌だった。  それを目の前で見ているのが怖かった。いつ致命傷にならないともしれないその光景を、毎回のようにつきつけられるのに心がついていけなくなった。  そもそも、リージェが回復魔法を得意としているのだって、そんなふうに幼少期から怪我の絶えなかったメルテのためにいっそう鍛練したからだ。
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