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朝日和斗
スマホをセンサーに押し付けるようにして改札を抜けると、俺は辺りにキョロキョロと視線を送る。
目当ての車はすぐに発見することができた。
コンビニと飲み屋の看板ぐらいしか目に留まるものなど他にない、うらぶれた駅前ロータリー。
そこに黒いワゴン車がひそりと止まっている。
駆けよろうとスニーカーの足を一歩踏み出すと、背中の辺りをヒヤリとした風が撫でていった。
この間まで倒れるような猛暑が続いていたと思っていたのに今日はやけに冷える。
もう一枚上着を持ってくればよかったな。
そう思いながら俺は薄いTシャツの袖をさすった。
「朝日おせーよ」
後部座席から高星明が昔と変わらない陽気な顔を覗かせる。
「ごめんごめん。昨日、仕事が立て込んでてさ、電車に乗り遅れちゃった」
「朝日のヘラヘラは相変わらずね」
高星が開けてくれたドアから体を滑り込ませると、藤好身和が冷ややかな眼差しを向けてくる。
学生時代を思い出させる艶やかな黒髪をアップにしているうなじが艶かしい。
「藤好さんの手厳しさも相変わらずですね」
大自中也が一重の瞼を更に細くしながら前の座席から振り返る。
その隣の運転席にはメガネをかけた男性が座っている。
見たことない顔だから、幹事の高星が雇った運転手なのだろう。
そして今回の同窓会の参加費は無料。
やっぱり金持ちのやることは違うな。
「ゲームの方は優しく頼むよ。俺、卒業してから全然プレイしてないんだよ」
ほぼ5年ぶりだろうか。
ボードゲームもこのメンバーで集まるのも。
2ヶ月ほど前、突然同窓会の案内状が送られてきた。
差出人の名前はなかったけれど、多分高星だ。こういった集まりはいつも彼が幹事だったから。
俺は大学時代、『ボードゲーム愛好会』というマニアックな同好会に所属していた。
ボードゲームといっても子供の玩具ではなく、大人が楽しめるものが世間には沢山ある。
頭脳系や騙し合い系、協力系など様々な種類があり、勝負がつくまでに2〜3時間かかるものもあるのだ。
始めたきっかけは何だったかは思い出せないけれど、ボドゲの奥深さにハマり、俺は授業を忘れるぐらい夢中になった。
俺達の代が特に夢中になったのは『locked room』というゲームだ。
閉じ込められた古い洋館で殺人がおきるという設定で、手がかりのカードを集めながら犯人を見つける、というものだ。
面白いのは、犯人が誰かその本人もわかっていない、という点だ。
「殺るか殺られるか。勝負の世界は手加減抜きよ」
藤好はその整った顔に不敵な笑みを浮かべてみせた。
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