32人が本棚に入れています
本棚に追加
🎀 ②
これは…
いったいどういうことなの
私は竹居くんの家の前で、かつてないほどに緊張していた。聞けば家は私と反対方向だったから、せいぜい駅まで一緒に帰ればいいだろうと思っていたのに。
『君に見せたいものがあるんだ』
そう言われて断りきれなくて、結局家までついてきてしまった。お母さんはいらっしゃるとのことだったので、それはそれで緊張するけれど、彼がやましい気持ちで誘ったのではないと確信できたので、来てみることにしたのだ。
「どうぞ」
「あ、うん」
玄関を開けると、早速お母さんらしき女性が出迎えてくれる。
「あらー。いらっしゃい。女の子が来てくれるなんて嬉しいわ」
「こ、こんにちは。桜井彩です。お邪魔します」
「どうぞ。上がってちょうだい」
緊張のせいか、ローファーさえも上手く脱げない。
一人でどぎまぎしていると、ちりんと鈴の音が聞こえた。顔を上げると毛足の長い大柄な猫と目があった。
ラグドールかな。尻尾をふわっと揺らして、ブルーの瞳が涼しげだった。
かっ 可愛い♡
違うドキドキが私の中で始まる。
「ふぶき。お客さんだよ」
竹居くんに呼ばれて、猫は「にゃぁん」と優しく鳴いた。転びそうになりながらお家に上がった私は、しゃがんで猫に手を伸ばした。ふぶきは私の指の匂いをふんふんと嗅いでから、ほっぺたをぐいーっとこすり付けてきた。
わあ…
初対面なのに怖がらないで、しかもすりすりしてくれるなんて、猫派にとってはたまらないご挨拶だ。
「よかった。君がいい人だってわかってるみたい」
「そうなのかな。嬉しいよ」
うちにもこないだ公園で拾った可愛い黒猫がいる。ふぶきの匂いがしたらヤキモチ妬いちゃうかな。
「ふぶー。おいで。桜井さんも」
竹居くんは軽々と猫を抱き上げて階段を登って行く。私はお母さんに小さく会釈をして彼について行った。
最初のコメントを投稿しよう!