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🎀 ①
昼休みのざわめきの中、私はちょっと焦ってる。
目の前には同じクラスの竹居くんがいる。それだけじゃなくて、私に微笑みかけている。その笑顔があまりに素敵すぎて気が遠くなりそうだ。
でも、彼が私に優しい理由がわからない。
私は学年で五本の指に入るくらい成績はいいけど、人付き合いは苦手。いじめられてはいないけど、基本ぼっちで過ごすことが多い。
そんな地味で冴えないJKに、クラスでも人気者の竹居くんが声をかけてくれるなんて、やっぱりこれは夢に違いない。そうだ、そうに決まってる。
私は読んでいた本から視線を外してチラッと彼を盗み見る。間違いなく彼は私を見つめていた。どうしていいかわからずに、また本に集中するふりをするが、さっきから一文字も頭に入ってこない。
わーん
嬉しいけど どうすればいいの
一人でドキドキしてるのが彼にも、他のクラスの人たちにも伝わってないといいなと思う。
「…ダメかな?」
ちょっと悲しげな雰囲気で彼が尋ねてきた。
えっ
何か聞かれてた…?
返事しなきゃ
「あ、ううん。大丈夫」
何の話かさっぱり思い出せなかったけど、聞いてなかったともダメだとも言えるはずがなく、私はそう答えてしまった。すると、竹居くんはすごく嬉しそうに一段と輝く笑顔になった。
「よかった! じゃあ、授業が終わったら一緒に帰ろうね!」
はうっ
そ そんなこと言われてたのかっ
「あ、ありがとう。あとでね」
心臓が身体中にあるみたいに、あちこちがどくどく揺れている。ほっぺたも熱いし、どう見てもバレバレかもしれない。
まあ
帰るだけなら ね
気を取り直して、読書を嗜む姿を装う。
窓から入り込む五月の爽やかな風が、私を優しく冷ましてくれる。
そう
それくらい 小学生でも出来る
少しずつ乱れた呼吸と鼓動がおさまっていく。午後の授業には差し支えなさそうだ。
そして放課後、私の考えが甘かったことが明らかになる。
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