カッコウの雛

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 父のそばには、居てはいけないんだ。  私は、咄嗟に家を飛び出していた。  こんな家庭の事情を友達に相談なんて出来きやしない。  どうしていいのか途方に暮れて、気がつけば、近くの公園のブランコに座っていた。  小さい頃から、父とよく来ていた公園。  ジャングルジムにも、鉄棒にも、このブランコにも父との思い出がある。  ずっと、父の子供だと信じていたのに、ずっと父の子供で居たかったのに、なんでこんな事になってしまったんだろう。  胸が痛くて、本当に痛くて、涙がこぼれた。    幼い頃から、いつも父とふたりで助け合ってきた。父とはたくさんの思い出がある。  父に喜んでもらいたくて、初めてカレーを作った時は少し焦げて、苦味があった。それでも父は、「美味しい、美味しい」と言って食べてくれた。  高校に受かった時だって、一緒に制服を買いに行ってくれて、「愛未が一番可愛い」って、店員さんの前で言うから、すごく恥ずかしかった。    血が繋がっていなくても、私の父親は、育ててくれた父だけだ。  優しい父の元へ帰りたいと強く思った。  私は、スマホを取り出し、電話を掛け始めた。  数コールで、相手の声が聞こえてくる。 「愛未、あんたコッチにいつ来るの?」  そう、電話の相手は母だった。 「私は、お母さんとは一緒に暮せない。それに金子さんとも。だから、二度と連絡しないで!」 「何言ってんの。血の繋がりのある親子で楽しく暮らしましょうよ」  今になって、私と暮らしたいという母の魂胆なんてわかっている。  母は私の事を思って同居を望んだわけじゃない。  私の事を家事要員とか、将来的に介護要員とか、とにかく自分のために私をコキ使おうと考えているのだ。   「私は、お母さんに対して凄く怒っている!私の気持ちを考えもしないで、自分の都合ばかり押し付けられて迷惑なの」 「なぁにいってんの。今さら隆史と一緒に住めるとでも思っているの?隆史だって、他人の子をこれ以上面倒みないんじゃないの?」  もちろん、その不安もある。  でも、父に拒絶されたとしたら、それは自分のせいだと思う。   「それは、お母さんが決める事じゃない。私とお父さんが話し合って決めること。だから、口出ししないで。永遠にさようなら」    
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