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母と会う時は、いつも気が重い。
けれど、母は私と違い、人の気持ちなんて考えない人だった。
自分が会いたければ会うし、気が乗らなければ、ずっと連絡を寄こさない。自分のしたい事だけに、行動するタイプなのだ。
忘れもしない、私が小学校6年の誕生日の日。
母は、「今までの生活に嫌気が差した」という自分勝手な理由で、私と父を捨てて家から出て行ってしまった。
その後、両親は離婚届けを出して、私は父と暮らしている。
父子家庭になって、4年が経った。
自分勝手に出て行ったくせに、母は、母親の権利というものを振りかざしては、時折私を呼び出すのだ。
そこで、聞かされるのは、大抵父の悪口と今付き合っている相手との惚気話。
そんなのは、わざわざ会って話す内容じゃない気がする。
私は、待ち合わせ場所のファミレスで、ため息をつきながら、ドリンクバーでメロンソーダをコップに注ぎ、席に着いた。
今だって、約束の時間を20分も過ぎている。
いつだって、母は人の都合など考えずに自由に生きているのだ。
「あっ、愛未。ここに居たのね。久しぶり元気だった?」
そう言って、目の前の席に腰を下ろした母は、39歳という年齢の割には、若く見える。
苦労なんてした事がないからかも知れない。
「うん、元気だよ」
ふふっと、笑う上機嫌の母は、私に何か聞いて欲しそうな顔をしている。
仕方がないので、訊ねてあげた。
「何かいいことあったの?」
「そうなの!私、再婚することになったの」
そして、これ見よがしに左手の薬指に輝く指輪を自慢げに翳した。
興味のない私は、愛想笑いを浮かべる。
「へー、おめでと」
そう言って、ストローでコップの中の氷をつつく。
その気の無い態度に、母は頬を膨らませた。そして、何かを思いついたようにニヤリと笑う。
「再婚相手、誰だと思う? あんたの本当のお父さんよ」
「はぁっ⁉」
母は特大の爆弾を投下した。
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