カッコウの雛

　あの日から、私の心はずっと揺れ続けている。家にいるときも、学校にいるときも、母の言葉が頭から離れない。
　何度も何度も、頭の中で繰り返される。
　本当のお父さんって、一体どんな人なんだろう？　
　私のことをどう思っているのだろうか？

　そんなある日、母から再び連絡があった。
　珍しく、すぐに会いたいという。
　仕方なく母の指定したカフェに向かうと、そこには母と一緒に一人の男がいた。

「愛菜、紹介するわね。この人が、金子典之よ。あなたの本当のお父さん」

　母がそう言って笑顔でその男を指差した。
　私は、思わず固まった。
　本当のお父さん？
　ずっと頭の中で繰り返していた言葉が、現実になった瞬間だった。

　金子典之は、40代後半くらいの背の高い男だった。
　笑っているのに感情があまり見えなくて、どこか冷たい印象を受ける。

「初めまして、愛未」

　彼は私に向かって、そう言った。
　なんだろう、この人……本当に私の父親なの？と疑問が頭をよぎる。
　私はどうしても、目の前にいるこの人を「父親」だとは思えなかった。

「本当に……お父さんなの？」

　私は、恐る恐る口に出してみた。金子は少し戸惑ったように笑みを浮かべ、母をちらりと見た。

「そうだよ。君が生まれる前から、僕と千花子は関係があったんだ。でも、いろいろあって君は隆史に育てられた。でも、それは過去の話だ。これからは新しい家族として、またやり直そうじゃないか」