カッコウの雛

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 その言葉を聞いた瞬間、私の中で疑問符が浮かぶ。  やり直す?  今さら? そんなことができるわけがない。  私は、ずっと育ててくれた父を父親だと思って生きてきたのに、この人が突然現れて、「本当の父親だ。これからは新しい家族だ」なんて言われても、どうしても受け入れられなかった。 「……じゃあ、どうしていままで、放って置いたの?私、今16歳なんだよ」  16年という期間、私はその辺に生えている樹木のように、何もせずに育ったわけじゃない。  私が今、こうして居られるのは、一緒に暮している父が居たからだ。  突然現れて、「本当の父親だよ」って言われても受け入れる事なんてできなかった。 「俺たちは、血がつながった親子なんだ。これからは、一緒に暮そう」 「私をほったらかしにして来たくせに、血の繋がりがそんなに大事なの? 私をずっと育ててくれた、あの人が私のお父さんなんだよ!」  つい、感情が爆発してしまった。母は驚いて私を見たが、金子はただ静かに座っていた。  怒りと悲しみが押し寄せる。この人が、私の父親だなんて信じたくなかった。 「愛未、落ち着いて。金子さんはね、これから私たちと一緒に暮らしてくれるのよ。隆史のことなんて忘れて、本当の家族で楽しく暮らしましょうよ」  母の言い草に、私は言葉を失った。  今まで育ててくれた父を…忘れる?  そんなこと、できるわけがない。   「ごめん、私には無理。育ててくれた父親を忘れるなんてできないし、あなたたちと一緒に暮らす気もない」  そう言って、私は立ち上がった。二人が驚いた顔で私を見ていたけど、もう何も聞きたくなかった。 「愛未、ちょっと待ちなさい!」  母の声が追いかけてきたけれど、私はカフェを飛び出し、そのまま家に帰った。  「ただいま」と家に帰ると、いつも通り父が「おかえり」と優しく声をかけてくれた。  その瞬間、私は涙がこみ上げてきて、堪えきれずに泣き崩れた。 「どうしたんだ、愛未?」  言葉が出なかった。私を包み込むこの温かさが、私の「家族」なんだと、心の底から感じていた。
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