カッコウの雛

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 日曜日の昼過ぎに、母が突然訪ねてきた。  昼間から飲んでいたのか、母の顔は赤く、言葉も少しばかり乱れていた。 「愛未ちゃん、お話があるのよぉ」  私は話など無かったが、母は我が物顔でズケズケと上がり込んで来る。  ドカッをソファーに腰かけ、私の手を掴んだ。 「おい、大丈夫か?いくらなんでも飲みすぎじゃないのか?」  父が間に入ってくれようとしたけど、母は父を睨みつける。 「なによー。うっさいわねー。しっ、しっ、」  そして、虫でも追い払うかのように手を振り払う仕草をする。相変わらずの態度に、私は胸騒ぎを覚えた。 「お母さん、ほらお水飲んで」 「あら、ありがと。愛未も気が利くようになったのねー」  私が差し出したお水を母はゴクゴクと飲み干し、口元を手の甲で拭い、ニヤニヤと笑いながら父を見上げた。 「わたし、再婚することになったのぉ。今日は、そのおめでたいご報告」 「そうか、良かったな」  父がそう言うと、母は小ばかにしたようにニヤッと口角をあげた。 「ねぇ、隆史。知らなかったでしょ? 愛未が、あんたの子じゃないってこと」  一瞬、時が止まった。  母はこの前、一緒に暮す話を断った私に仕返しをしに来たのだ。 「……何言ってんだよ、お前。冗談にしてはひどすぎるぞ」  父は、信じたくないのか、冗談にしようと半笑いで返した。  私はどうしていいのかわからず、怒りたい気持ちと、泣き出したい気持ちで頭の中はぐちゃぐちゃだ。 「冗談? 違うわよ、本当よ。あんた、ずっと騙されてたのよ、馬鹿ねぇ」  酔った母の目はどこか狂気を帯びていた。 「嘘だろ……?お前、何言ってんだ。愛未は俺の子だろ?」 「愛未は、金子と私の子よ。私の再婚相手の金子とは、あんたと結婚する前からの仲なのよぉ」 「おい、うそだろ……」  そう言った父の声は振るえていた。 「ホントよ。あんたの子じゃないの。ずっと知らなかったんでしょ?だからこそ、よかったわ。あんたが愛未を育ててくれたおかげで、私たちは楽だったのよ」    私は、耳を抑え立ち竦む。  私まで、父から搾取する母の共犯者になってしまったようで、言葉が出ない。   「本当の父親じゃない男の所に、これ以上娘を置いて置くのもね。だから、愛未はわたしが引き取るわよ。いままでお疲れさん!」  母は言葉を吐き捨てるように告げ、ケラケラと笑いながら家から出て行く。  父と私のふたりきり、部屋は沈黙に包まれた。
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