あの夜に響いたチャイムは何を告げた

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 その後の生活は奈落の底へ。私は、その時すでに彼と結婚していて、半年になる子がいた。謙一である。  雄太は職を失ったが、今まで楽をさせていただいたこともあったし、愛していた。    私は知り合いのスーパーで働かせてもらった。だが、女一人の働きでは十分な生活ができない。雄太も初めは知り合いに頼んで、力仕事に雇ってもらっており、なんとか生活することができた。そんな矢先、仕事で足を怪我し職を失う。そうなると彼は酒に逃げた。  不幸は会社が潰れたことに始まったが、本当の不幸はその時からであった。  二人で働いているときでも普通のサラリーマンの稼ぎであったから、一人になると食費を削るしかなかった。  それまで持っていた宝石や洋服なども売り払い、着たきり雀を地でいくような生活にも我慢した。  それでも最初のうちは「俺がこんなですまん」と言ってくれていたのが、せめてもの慰め。でも生活が苦しくなり、息子のミルクにもこと欠くような生活になる。それでも夫、雄太の優しい言葉があったから、何とかやってこれた。    でも最初に切れたのが、雄太であった。  仕事を失うと昼間は引き出しにあったミルク代を持ってパチンコに通い始める。昼も夜も酒におぼれる。そんな生活が自分でも嫌になったのか、いつしか酔うと乱暴をはたらくようになった。
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