あの夜に響いたチャイムは何を告げた

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 後藤達が二度目に訪ねてきてから、四日ほど経った。あの雰囲気ではすぐにでもやってくる様子であったが、何の連絡もない。  だが、問題がなくなった訳でない。洋子一人では解決できないので、亡くなった夫の会社、西園寺建設の総務部長田部に相談した。田部は夫の大学の後輩で、卒業するとすぐに入社し、頭も良かったが仕事もでき、すぐに謙一に認められると着実に出世した。  電話ではできない込み入った話であると伝えると、今夜空いているので伺いますということであった。  洋子は、田部に後藤との話、それから謙一の母、早苗の日記のことなどを包み隠さず話した。  その時彼から出た言葉は、『詳しい法律の話は分からないが、どうやら相続権はその前田にありそうだ。でも社に戻って顧問弁護士に相談し追って連絡します』と言って帰る。  洋子からの依頼を田部から受けた弁護士は、戸籍を調べ、謙一が普通の養子でない特別養子であり、実父・前田とは法律的にも親子関係が切れていることを田部に知らせた。そうなると誰も相続できなくなるが、洋子が実質的に内縁の妻であったことで特別縁故者と認められ、会社の株を含め、謙一の財産すべてを相続した。  洋子は、しばらくして世話になった田部と結婚した。だが、半年ほどしたとき駅の階段から落ち、打ち所が悪かったのか死んでしまう。誰かに突き落とされたのではという疑いもあったが、目撃者も現れず事故として片づけられた。
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