あの夜に響いたチャイムは何を告げた

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 チャイムが静かな部屋に響く。  洋子は、ソファでうつらうつらしていたのか、その音に一瞬ビックとして周囲を見渡す。時計を見ると夜の八時を過ぎていた。こんな時間に誰だろうという思いを浮かべる。洋子は慌てて立ち上がるとインタフォンを覗く。  荷物の配達人ではない。薄明かりに見覚えのない二人の男性の姿が浮かぶ。 「はい」という洋子の声に、「先日亡くなられたご主人のことでお話が」という。今日はもう遅いのでと言おうとしたが、そんな気持ちを察したのか、「私は、弁護士の後藤といいます」という声が追いかぶさってくる。  洋子は、弁護士という言葉に反射的に「ではどうぞ」という声を発していた。  玄関に招き入れると身なりのいい、五十歳くらいに見える男がアルミのスマートな名刺入れから一枚取り出し、「弁護士の後藤です」と洋子に差し出す。 「こちら、前田雄太さんです」  後藤のすぐ後ろに立っていた男を紹介する。洋子は、その男を玄関照明の下でまじまじと見ることになった。髪の毛こそ短かく刈り込んでいたが、着ているものもだらしなく全体的な風貌はすさんでいた。六十は優に超えて見える、この男だけであったら、昼間でも家に招き入れることはしたくないという気持になる。 「どんなことでしょうか。何か主人に関係することですか」  洋子は、改めてその弁護士に向きなおり質問する。 「そうです。申し訳ありません。立ち入ったお話になりますので、できれば」  後藤のその申し出には有無を言わせないという雰囲気が現れていて、勢いに負けた洋子は仕方なくリビングに招き入れた。前田という男にはあがって欲しくなかったが、そうもいかない。  洋子は、客にソファを勧めてから一度引っ込むと、お茶をいれてきて二人に差し出す。 「おいしいですね。これはどこのお茶ですか」  後藤が一口含むとそんな言葉を口にする。 「お分かりになりますか。狭山です。義父から『色は静岡香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす』と聞いたことあります」
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