あの夜に響いたチャイムは何を告げた

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「はあ」  洋子は、返す言葉がなかった。 「それで、大事な話はこれからですが」  と言って、前田が、謙一が亡くなったことを知ったのは新聞の地方版であったこと。その前に、離婚してしばらくして、別れた早苗が大きな建設会社の社長と結婚したことを人づてに聞いたという話がでた。  洋子は終始黙って後藤の話を聞いていた。 「話はそういうことですが、用件はただ一つです」  と言って横に座った前田の顔を見てから、後藤の口から出た言葉は思いもかけないことであった。 「聞くところによると、洋子さん、あなたは謙一さんと正式には結婚されてない。籍を入れてないとか。そうなると亡くなった西園寺謙一さんの財産を相続する権利を有する人は、誰になりますかね」  洋子は、話はそれだったのかと驚いた顔をするが、それに対する返答など用意していない。 「こちらとしてもある程度のことは調べております。謙一さんにはお子さんはおろか、ほかにご兄弟もおられない。育ての父親と母親も亡くなっておられる。となると法律上彼の遺産を相続できる人は、こちらにおられる実の父親、前田さんということになります」    後藤は、しばらく時間をおくと「洋子さん、あなたもこういう話を今聞いて、『そうですか、分かりました』ということにはならないでしょう。すぐに何かをという話ではありませんので、今日はこれくらいにして、後日、法律的な書類などもいくつか用意してまた伺うことにします」といって、前田に「今日は帰ろうか」と告げる。
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