やり残したこと

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「はい、知らないです。  僕は、このドアをくぐり抜けたら、違う世界に来たみたいです。  このドアは、何ですか?」 頭の中が混乱していた僕は、率直に質問してみた。 するとその女性が僕の方に近寄って来て、 「お教えしますよ!  どうぞお座りください。」 と優しい口調で話してくれたので、僕は女性の言葉に従ってベンチに座った。 その女性も僕の隣に座って、 「私は『璃桜(りお)』です。」 と名前を教えてくれたので僕も、 「将優です。」 と言葉を返した。 「このドアをくぐり抜けると、1年前の世界にタイムスリップするのです。  ですが、タイムスリップできる人とできない人がいるようです。」 璃桜さんの話は僕には理解しがたいものだったけれど、璃桜さんは続けて、 「タイムスリップできる人は、1年前に何かやり残したことがある人です。  そのやり残したことを終えると、タイムスリップはできなくなります。」 と教えてくれた。 璃桜さんの話を聞いた僕は、1年前に何かやり残したことはあるか考え込んでしまった。 少し沈黙した時間があって、その沈黙を打ち消すように璃桜さんが、 「元の世界に戻りたいですよね?」 と言ったので僕はとっさに、 「はい、戻りたいです。」 と言うと璃桜さんが、 「それでは、教えてあげます。  ドアの前に立ってください。」 と言って璃桜さんは立ち上がってドアに向かって歩き始めた。 僕も璃桜さんの後を追うように、立ち上がってドアに向かって歩いた。
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