エドガー先生と伝記

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「うっ、そこ聞いちゃうんすか?」 口をひきつらせる俺には目もくれずに、ブリューはペンを走らせている。 「一応これも仕事なんでね。聞きますよ! で、実際はどうなんです?」 ブリューは好奇心溢れる目で俺を見た。 物言いたげな視線でブリューを見ると、さらに煌めいた目で俺を見て、無言の圧力をかけてくるから手におえない。 「はあー、別に面白くもない話っすよ。俺の人生、黄の妃に狂わされたって話っすから。正直あの人とはもう関わりたくないんすよ。黄の王子には悪いっすけど、俺にはどうにもしてやれない。どんだけがんじがらめにされていようとも、その糸をたち切る手段が俺にはないんすよ」 「というと?」 ブリューが続きを促してくる。 純粋に物事がどうなってるのか知りたいんだろうなと思う目で俺を見ている。 「俺がクビになったのは、黄の妃の逆鱗にふれたからっすよ。あの人の計画の妨げになると思われたから、俺はクビにされ、路頭に迷うことになったんす」 熱心にメモを取りながらブリューは言う。 「王宮勤めって、基本的によっぽどの事がない限りクビにされないシステムですからねえ。それを一年たたずにクビになるって相当の事ですよ?」 俺は一瞬言葉に詰まった。 そして脳内で過去を振り返っては、限りなく白よりのグレーだったよなと再確認し、うんうんとひとり納得する。 「そんなこと言われなくてもわかってるっすよ。ただ、これは声を大にして言いたいっすけど、俺は最善の手を打ったまでっす。そこに落ち度はなかった。血濡れのエドガーなんて通り名がついたのも、黄の軍師をクビになってからだし、意図的に排除する動きが出来てたんすよね、あの頃は。 恐らくは俺を持て余し、自身が企てている計画が俺によって頓挫するとふんだからクビにして徹底的に干したんすよ、あの人は! 本当に底意地の悪い、悪名高い妃っすよね、黄の妃は!!」 感情に任せてドンッとテーブルを強めに叩くと、今度はブリューがキョロキョロと周囲をうかがい、小声で俺に耳打ちしてきた。 「黄の妃は、まだまだ地位もある現役の妃ですからね、どこで誰が密告するかわかりません。発言は慎重にした方がよろしいかと。」 俺はあえて店内にいる人々に聞こえるように、大きめの声で言った。 「そんなこと言われても困るっすよ、黄の妃の悪口しかでないんでね! それが嫌なら出版は無しだなー!!」 「ああああ!! そりゃないですよ、エドガーさん! 自分はこの伝記に記者生命かけてるんですから!!」 俺はニンマリと笑った。 「じゃあ聞く? 俺の愚痴。」 身を乗り出して言う俺に、ブリューは唸る。 大量の汗を全身から吹き出しつつ、青い顔でブリューは声を絞り出した。 「地獄の果てまでお供しますよ……!!」
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