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エドガー先生と伝記
「伝記……っすか?」
王都の一角にある喫茶店にて。
俺、エドガー・マクウェインは、目の前の人物の発言に目を見張った。
「そうです、伝記!! 血濡れのエドガー誕生秘話を本にして出版しませんか!?
タイトルはズバリ、『かつて神童と呼ばれた君へ』とかどうでしょう?!」
鼻息荒くテーブルから身を乗り出し、まくし立てる男ブリューは、出版社とのパイプがある記者だという。
(街で声をかけられた時点で怪しいなとは思ったっすけど、これはいよいよヤバイやつっすね)
俺はブリューが集めたであろう、俺に関する情報をどうやって聞き出そうかと頭の中で考えながら、慎重に言葉を紡いでいく。
「俺の伝記なんか書いたって、売れはしないっすよ! 現に今だって、買い出しひとつで街に出ても、相変わらず遠巻きにヒソヒソされるだけだし。血濡れのエドガーは俺にとっても汚点のひとつ。どこまで調べたかわからないっすけど、伝記なんかだしても一文の得にもならないっすよ!」
片手を首に当て苦笑いで返す俺に、ブリューは顔を真っ赤にしてさらに息巻き、早口でまくし立てた。
「内容に関しては、安心してください!
噂レベルの話は除外して、徹底的に裏取りをした情報だけを選りすぐり、記事にして本にしますから!」
「いやいや。どうせゴシップ上等な内容にするんでしょ?」
「まさかそんな!! 私はね、未来を予知できるとされた東の部族が、王命で滅ぼされた際に残したとされる予言書を、極秘裏に入手したんですよ! それによると、3人の王子らが王位をめぐって三つ巴の争いをし、その結果、国内にて暴動が起きると記されていました。そんななか、まるで時が止まったかのような少年然とした見た目の赤毛の軍師が現れ、国内で起こった暴動を沈静化させたうえで、戦争のない国へと導いていくと記されていたんです! 私はね、あなたを街中でひと目見た時に電流が走ったんですよ! きっと予言書に記されている軍師はあなただと、本能が私に訴えかけてきたんです!!」
勢いのまま席を立って熱弁するブリューに、俺は次の一手を考察しながら、声を潜めて言った。
「その予言書、本当に東の部族が書いたものなんすか? 証拠は?」
ブリューは周囲の注目を集めていることにやっと気がつき、ひとつ咳払いをして、大人しく席に座り直した。
「本物だという証拠ならあります!
この予言書は元々、司祭が教会にて保管していたもので、背表紙に教会の刻印がついているものです。実物はこちらに。」
ブリューは周囲を警戒しながらも懐から一冊の本をとりだし、テーブルの上にそっと置いた。
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