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コインランドリーの近くまで来たので、スマホをホーム画面に戻すと、メールアプリの右上に鎮座する赤色の"1"が目に飛び込んでくる。
途端に、頭の後ろから沈み込みそうになり、慌てて画面を暗くした。真っ暗なそこに映り込んだ自分の顔は、口元が引き攣りこわばっていた。
些細なことでも、亀裂の隙間からざわざわと不安が押し寄せてきてくる。夜の深さも相まって、ひとりで途方に暮れそうになる。
深夜1時を選んだのは人との鉢合わせを防ぐためだ。3件先には交番があるから犯罪に巻き込まれる確率も低い、と信じている。
気持ちは落ち着かないまま、コインランドリーのガラス扉の前に立つ。
そこでようやく気付いた。
ぼんやりとした人影が浮かんでいる。どうやら先客がいるらしい。
手汗がじわりと滲む。足が一歩後ずさる。夜中を選んだ理由が崩れ去った。帰宅の2文字が頭をよぎった時には、ガラス戸越しの人影は成人男性ほどの大きさになっていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
扉のスライドする音と共に現れたのは、ひとりの男性だった。
凛々しさを具現化したようなブロー型のメガネと、真っ白なシャツが印象的なその人は、すぐにコインランドリー内へと踵を返す。
今更帰る勇気などあるはずもなく、私はビニール袋を胸元で抱きしめた。
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