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青白い照明に照らされた空間だった。やや黄ばんだ洗濯機と、レトロでポップな花模様の床は昭和を感じさせるけど、全体的に綺麗に整えられている。
冷房が効いた空気に触れた肌から、汗がひいていく。
先ほどの男性は、奥の折りたたみのパイプ椅子に腰掛けていた。背もたれに体を預け本に視線を落としている。長い足は持て余すように組まれていた。
眼鏡の奥に覗く目は切れ長で冷ややか。清涼感の漂う顔立ちはとても美しい。この空間では浮いてしまうほどに。
彼がいくら目立っていようとも、ジロジロと見られるのは気分のいいものではない。これ以上視線は向けないように意識しながら、洗濯機の正面に貼られた説明文のシールを2回読み直す。
下着を洗濯ネットごとサッと素早く放り入れた。それ以外は隣の洗濯機に分け入れる。お金を投入して、水量と時間をもう一度チェック。同時にスタートボタンを押した。
ゴン、という金属が凹んだような音を立てた後、2台の洗濯機はゆっくりと稼働し始める。
「使い方わかりました?」
驚きで肩が震えた。勝手に気まずさを感じていたからか、話しかけられるとは思っていなかった。振り返ると、あの涼やかな目が私に向けられている。
「はい。ここに書いてあったので」
「そのシール分かりにくいって評判なんですよ。俺は説明係。おねえさんには必要なかったけど」
「店長さんですか?」
「一応そんな感じです。俺のキャラじゃねえわって思うんですが、まあ、適当にやってます」
とても話しやすい人だ、想像していたよりもずっと。ただ、なんとも言い難い違和感のせいで会話に身が入らない。
私はよそ行きの笑みを浮かべながら、気のせいだと思うことにした。
だって目の前の彼は、今もなおその美しい顔を崩すことなく、はんなりとした品を漂わせている。
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