星のあなた-1

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ガラス戸の前にオーバーサイズの黒Tシャツを着た青年が立っている。ブリーチで色素が抜け切ったふわふわの金髪が、蛍光灯の下で一際輝いていた。大きな猫目から放たれた視線は、清々しいほどに直線方向だ。 店長さんとは違う系統の、綺麗な子だ。私はゆっくりと正面に向き直る。思わず見惚れていたことを誤魔化すためだったけど、すぐに後悔した。 「要、てめぇコラ」 私に向けられたものではない、真正面からメンチってやつを浴びてしまう。眉間に皺を寄せた店長さんは、美しい顔の造形のせいか迫力がありすぎる。 私はぎゅっと目を閉じて、なるべく体を縮こませることで、気配を消すことに徹した。 「なんで起きてんだ。寝ろ」 「…お腹すいた」 「ああ?夜メシ米2合も食ってたろうが」 「でも、お腹すいた」 「ふざけんな、胃の容量ぐらい把握しとけ」 粗暴系と脱力系による言葉の応酬は、温度差がありすぎて外野はヒヤヒヤする。当事者でもないのに胃が痛み出しそうだった。 数秒の無言の時間のあと、店長さんはわざとらしいため息を吐いた。 「ブタメンで我慢しろ」 「うん、ありがと」 横を通り過ぎ様、青年の頭をくしゃっと雑に撫でた店長さん。少しかがみながらガラス戸の敷居を跨ぎ、夜の広がる外へと消えていく。 「こんばんは」 「こ、こんばんは」 「お客さんですか?」 気に留める様子がなかったから、私の存在自体見えていないのかと思っていた。 後ろから顔を覗き込んできて、突然現れたイケメン君のドアップに変な声が出そうになる。未成年らしき彼がきちんとした挨拶をしてくれているのだからと、大人の意地でなんとか堪えた。 でも、私の怯えっぷりまでは隠せなかったようだ。彼は少し考える素振りを見せたあと、徐に口を開く。 「店長はあの見た目でただのチンピラなんですけど、反社との関わりは一切ないので安心してください」 「それは、よかったです」 —— 私はネガティブに呑み込まれた怪物だ。 感情すべてが内側に向いていて、それが首元に絡みついている。息がしづらくていつも苦しい。苦しいということしか、考えられない。 でも、この時だけは違った。未成年に気を遣わせた情けなさも感じていたけれど、他人に気を遣える彼は良い子だなあという、感動にも似た感情がほんの少しだけ上回った。 言葉の節々から、店長さんと気が置けない間柄であることが伺える。なんだろう、癒しに近いこの感覚。何かのはずみで笑みが溢れてしまいそうになる。 外に階段があるのか、カンカンと金属を踏み締める音が聞こえる。程なくしてお盆を持った店長さんが戻ってきた。
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