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【余話/1話後】別れの夜、あるいは感傷に浸る彼の話
「――終わった」
端的なスヴェンの言葉に頷きを返して、レーナクロードは腰かけていた椅子から立ち上がった。
待機していた部屋を出て、廊下を歩き、目的の部屋の前に辿り着く。それが誰にも阻まれないのは、この家の主たちの暗黙の協力ゆえのものだ。
部屋の主からの応えがないことを承知で、一応の礼儀として扉を叩く。そっと入室し、奥にある続き部屋――寝室への扉もまた叩いた。やはり応えはない。
当然だ――スヴェンに頼んでこの部屋の主を魔術的な眠りにつかせたのはレーナクロードなのだから。
エリシュカ・アーデルハイド。レーナクロードの幼馴染であり、先日解消を申し出るまでは婚約者であった人物だ。
その彼女が、こうしてレーナクロードが許可なく部屋を訪れ、あまつさえ枕元に近づいても目を覚まさないことこそ、スヴェンの魔術が正常に作用している証左と言える。
そうでなければ、さして潜めていない気配に気付くだけの素養はある彼女のことだ、目を覚まして叩きだされるくらいはしているだろう。
「目を、覚ましたら。……きっと、怒るんだろうな」
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