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婚約解消いたしまして。
「婚約を、解消したい」
前触れもなく唐突に、婚約者にそんなことを言い出されたエリシュカ・アーデルハイドは、しかし驚愕も怒りも抱くことはなかった。
ただ、頭を下げたまま動かない婚約者――レーナクロード・シルヴェストルを静かに見つめ、それから顔を上げるように促す。
『聖騎士団長・レーナクロード・シルヴェストルは、異世界の少女と恋に落ちた』。
巷でそんな噂が流れているのを知ってから、近いうちにこんな日が来るだろうとエリシュカは思っていた。だから、レーナクロードの申し出に驚くこともないし、怒りを覚えることもない。
エリシュカとレーナクロードは確かに婚約関係にあったけれど、二人の間に恋も愛も存在しないことは、エリシュカ自身がよく分かっていた。
幼馴染で、家族のようなものだった。情はあったけれど、それは恋にも愛にも変化しなかった。ただただ、名前ばかりの婚約者だった。
この婚約が、互いの家の利益重視で結ばれたものだったら、それでもエリシュカは苦言を呈するくらいはしただろう。
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