遠い人を想う

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 慣れたシーツの感覚に瞼をあげる。整った寝顔が目の前にある。でも、あの日とは違う。きちんと覚えている、すべてを。 「おはよう」  加賀が瞼をあげて微笑む。低くかすれた声が色っぽいと思ったな、と懐かしく思う。 「今、何時?」 「朝の五時半です」 「始発が出てるから一度帰るよ」  身体を起こした加賀の裸を目にしたら恥ずかしくなった。少し俯いて顔を隠すと、そんな希望の頭を撫でた加賀がベッドから出る。 「覚えてる?」 「全部覚えてます。……恥ずかしいくらいに」 「よかった」  服を身につける加賀の姿を眺め、少し抱きついて邪魔をしてみた。加賀は咎めず抱きしめ返してくれる。  そんな悪戯をしていても加賀はしっかり着替えを終えてしまい、少し寂しくなる。  玄関で加賀を見送る。 「駅まで一緒にいきましょうか?」 「大丈夫。スマホのナビ見るから」  キスをひとつくれた加賀が微笑む。 「それじゃ、改札前のいつものところで」 「え……」 「隣にいてくれるんだろう?」 「はい!」  加賀の背を見送り、ドアを閉める。  シャワーを浴びたら朝食を用意しよう。お気に入りのコーヒーを飲んでから部屋を出て、彼と歩く短い時間で幸せに満たされるのだ。  幸せが待っている。それだけで心が浮き立って世界が輝いて見えた。 (終)
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