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「君、珍しいものを集めるのは好きか?」
不意に、雨が降る駅のホームで、低い声が鮮明に響いた。振り返ると、古びたトレンチコートの男が鋭い漆黒の瞳で俺を見据えている。
「……ええ、まあ」
圧に押され、俺は何となくそう答えてしまった。
昔から収集は好きだから嘘では無い。フィギュアやマンホールの蓋の写真、落ち葉や石ころまで集めたくなるのは、もはや癖だ。
俺の答えに男はどこか満足げに頷くと、徐ろにポケットから小さな瓶を取り出した。中には、何か黒っぽい液体が詰まっている。
「私の収集品の一つだ。君も興味があるかもしれない」
「……これは?」
思わず口を開いたが、得体の知れないそれを見て少し声が震えた。男はそんな俺の動揺を楽しむかのように、不敵な笑みを浮かべる。
「これ? これはね、『人の罪悪感』だよ」
言葉に反応するように瓶の中で黒い液体が静かに渦を巻くその動きは、どこか生き物じみていて何かを主張しているように思えた。
冗談と思うには男の表情と声はあまりにも真剣で、俺は図らずも息を呑む。
しかしそうとはいえ、安易に信じられる話でもない。
「馬鹿馬鹿しい……そんなもの、集められるわけないだろ」
気を取り直して鼻で笑ったが、不気味なほど動じない男は、瞳を細め静かに口を開く。
「強い感情ってのは、時に形を持つんだよ。少しコツと時間が要るが、できないことじゃない」
男は再びポケットに手を入れ、別の瓶を取り出した。
「ならば、手始めにこれをあげようか。名を『後悔』という」
男が見せた瓶には、またも黒い液体。
ただ、先ほどの瓶とは異なる粘力と濃度が微妙な陰影を与えている。
――では、黒とは、果たして何色あるのか?
引き寄せられるように瓶に手を伸ばすと男から渡されたそれは、思ったよりも重くて、手のひらの上で冷たく輝いた。
「どうすれば……これを集められる?」
不安と好奇心が交錯し、つい口から漏れた問いに、男が微笑んだ。
「簡単さ。人の心に触れて感情を引き出すんだ。強いほど具現化する。こんな風にね」
男が爪弾いた瓶が、キンッとか細い音をたてる。
「……代償は?」
俺は直感的に尋ねた。
「カネ――なんて、つまらない答えじゃないだろうな」
手元で別の瓶を揺らしていた男は、しばし考えるように沈黙したのちに、少しだけ笑みを崩しながら答える。
「代償は……君自身が決めるだろう」
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