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第3話 猛アタック
もう本当に勘弁してほしい。ゴブリンがずっと私の隣にいる。それも、まるで護衛みたいにピタッと。いや、護衛っていうか、求愛?どっちにしても、これ以上近づかないでって感じ!
「お前、何かあったらすぐに言え。私が守ってやるからな」
「は、はい…」
そう言ってくるゴブリンを適当に流すけど、内心はため息しか出ない。この異界から脱出したい、それだけが私の願い。でもゴブリンは助けてくれるどころか、どんどん距離を詰めてくるし、気持ちが重すぎる。
「ねえ、私、ちょっと休憩したいんだけど」
少しでも彼から離れるため、あたりを見回して適当に言ってみる。森の中で何もないけど、とにかくこの場から離れたい一心で。
「うむ。ではこのあたりで休もう」
と言いながら、ゴブリンは周囲を見回して、安全そうな場所を探してくれる。優しいところは確かにあるんだけど、だからといって恋愛感情には絶対に結びつかない。
「ありがとう…」
しぶしぶ座り込んで、少しの間だけでも静かに過ごせるかなと思った瞬間、またしてもゴブリンが話しかけてくる。
「お前の世界では、どうやって暮らしているのだ?」
「え?普通に…学校に行ったり、友達と遊んだりしてるよ」
「学校とは何だ?友達とは、どういうものだ?」
うーん、この世界にはそういう概念がないのか。考えてみれば当たり前かもしれないけど、説明するのが面倒くさい。
「学校は勉強するところで、友達は…一緒に笑ったり、悩んだりする人たちだよ」
「ふむ。では、私はお前の友達になれるのか?」
「え?」
いやいやいや、ちょっと待って。そういう意味じゃないんだけど。
「お前がそう言ってくれたのだ。私はお前を笑わせ、守っている。つまり、私はお前の友達ということだな」
「いや、それはちょっと違う…」
必死で否定しようとするけど、ゴブリンは嬉しそうな顔をしている。なんだかもう、この状況がますますカオスに感じてきた。どうしてこんなことになったんだろう?
「お前の世界には、私のような者はいないのか?」
「ゴブリンはいないよ。人間ばっかりだし、こんな異界もない」
「それは寂しいな。お前はこれから私と共に生きるべきだ。そうすれば、私がずっとお前を守る」
「いや、だからそれは無理だってば!」
何度も繰り返すけど、ゴブリンには全然通じてないみたい。私が望んでいるのは、普通の生活に戻ること。それに、ゴブリンと恋に落ちるなんて絶対にありえないし。
「あ、あのさ…私は本当に元の世界に帰りたいんだよね。だから、手伝ってくれると嬉しいな」
一縷の望みをかけて、そう言ってみた。するとゴブリンは少し考え込んだ様子で、ゆっくりと頷いた。
「お前がそこまで望むなら、何とかしてやろう」
「ほんと!?ありがとう!」
一瞬、希望の光が見えた。これで帰れるかもしれない。だけど、その次の言葉で再び絶望に落とされた。
「だが、条件がある」
「え…?」
「お前が元の世界に帰る前に、私と結婚するという条件だ」
「な、なんですって!?」
耳を疑った。結婚!?しかもゴブリンと?いやいや、そんなの絶対に無理でしょ!
「お前は私に救われたのだ。それに、私はお前に心を捧げている。だから、結婚は当然のことだ」
「全然当然じゃないよ!」
もう頭が混乱しすぎて、どう言い返したらいいのか分からない。結婚なんて、普通は好きな人とするものでしょ?しかもゴブリンって!私が憧れてたのは、もっとこう、かっこいい大人の男性だったのに!
「だが、お前がそう望むなら、元の世界に帰す方法を探そう。だが、それには時間がかかるかもしれん」
「時間がかかる…」
正直、時間がかかってもいいから、何とかして帰りたい。でも、そのためにはゴブリンとずっと一緒にいなきゃいけないの?それもまた、耐えがたい。
「では、私が探し続ける間、お前はここで私と共に暮らせ。そうすれば、いずれ道は開けるだろう」
ゴブリンはそう言って、にこりと笑った。その笑顔が、ますます私を不安にさせる。どうしてこんなことになってしまったんだろう?
「うん…でも、絶対に帰る方法見つけてね」
「もちろんだ」
そう言うゴブリンの声には、確かな自信があった。でも、その自信が私には怖い。だって、結婚とか言ってるし。絶対にそんなことになりたくないのに。
ゴブリンは再び周囲を見回し、警戒を怠らない様子。守ってくれるのはありがたいけど、なんでこう、もっと違う相手じゃなかったのかな…。いや、助けてもらってるし感謝はしてるんだけど!
「さあ、次の目的地へ行こう」
ゴブリンが言うと、私は重い足を引きずりながら、彼の後ろをついていくしかなかった。どこに行くのかもわからないけど、今はこの世界で生き延びるしかないみたい。
もう一度、白馬に乗った王子様が現れてくれないかな…なんて、そんな都合のいいこと、起こるわけないか。
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