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まず一言で言うと、この世界は私が暮らしていた世界とは全く違った。
「モンスターがいる……」
既視感があるような、ないような。けれどゲームにそこそこ疎い私でもわかる。なんか、あれだ。有名RPGに似てる。
野犬型のモンスターに吠えられながら空中をピョロピョロと移動する。
そのモンスターに群がる人間──彼らの会話から「冒険者」と呼ばれる職業の人々がそれを倒したことがわかった。
「あのー、すいませーん。聞こえますか?」
返事はない。
試しに目の前にまわってみても目すら合わない。私のことが見えないし、声も聞こえないようだった。
何組かに声をかけてみたが、みんな同じ反応だった。
どうやら本当に私は幽霊らしい……。享年アラサー。ショッキングな現実に本格的に心が折れそうだ。もうないんだろうけど胃が痛い。
目覚めてから3日後──。
そのパーティーも野犬型のモンスターを狩っていた。
ガラの悪いパーティーで、手際はそれほど良くなく時間はかかったが狩りは無事終わった。
「おい、いつまでチンタラやってんだ。戻るぞ!」
「は、はい」
パーティーのリーダーと思われる金髪に眼帯の男の後ろで、草を両手いっぱいに抱えた少年が顔を上げた。近付いてみると、少年は申し訳程度の走り書きがされたメモも持っていた。
私はメモの内容を読み上げた。
「なになに? ネコジャンジャンラシにマタタビタビ? あー、あれかな? 薬草採取ってやつ!」
どうせ聞こえないし、と思って出した大きな声に、少年がビクッと肩を震わせた。
思わず少年の顔を覗き込む。
「えっ? ねえ、今聞こえた?」
少年は口元を引きつらせていた。
「う……」
すっかりしかめっ面の少年と目が合ったことで、私は確信した。
この子、私のこと見えてる──。
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