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途方に暮れるまま立ち尽くして、辺りはだんだんと暗くなってきた。
「夕暮れ時だし、町とか……人がいる場所に行った方がいいんじゃないかな」
どの口が言ってんだとウザがられるのは承知の上で、口を出した。
治安の程度は知れないが、宿に泊まれないとはいっても、さすがに町の外をうろついているよりは安全なのではないだろうか。
「うるさい」
そう言いながらも少年は歩き出した。
私はホッと胸を撫で下ろし、少年の少し後ろをついていく。
「ついてくんな」
「あ……いや、でも1人になったの私のせいだし」
嘘だ。本当はただ私が1人になりたくないだけ──……。
まだたった3日しか経ってないけれど、この体で、自分が幽霊なんだって自覚したら、とても怖かったから。あの異様なテンションは、この先、自分に気付いてくれる人がもう現れないかもしれないという不安の裏返しでもあったのだ。
しかしそうだったとしてもそれは言い訳だ。この子の生活を壊していい理由にはならない。
……それでも、それでも1人には戻りたくなかった。
「私でよかったらさ! その、仕事とかできることあったら手伝うよ! だからさ──」
「何言ってんだよ。幽霊のくせに」
『幽霊のくせに』。その単語は今の私にはだいぶキツくて。そんな資格ないくせに、涙が一粒頬を伝った。
「そうだよね。……ごめんね」
“無責任”という言葉が頭をよぎったけれど、たしかに今の私にできることはない。私は軽く手を振って、少年から離れることにした。
私が少年に背を向けて数秒後のことだった。甲高い悲鳴に私は身を翻す。
戻ってみれば、そこでは少年が野犬型のモンスターと対峙していた。
そのモンスターは、そのほとんどを大人2人がかりで倒していたのを思い出した。そんなモンスターを相手に、この少年が応戦できるわけもない。
少年の傍へ降りる。
「逃げて!」
「あ、足が……」
足が竦んで動けない──と、少年の縋るような目に焦りが募る。
どうしよう。どうする……どうしたらいい? 私に何ができる?今の私に……
「幽霊」の私に、何ができる──?
次の瞬間、目の前に「コマンド画面」が出現した──。
『コマンドを選択:憑依しますか? →YES/NO』
「なに、これ」
意味がわからない。いやわかるけど、わからない。なんだこれ。憑依、コマンドって……。
絶句している暇はなかった。
野犬型のモンスターがこちらに突進してくる。
「ああもう!」
──どうにでもなれ!
「YES」と心の中で叫ぶと私は──……。
「って、こっちかああああい!!」
野犬型のモンスターに憑依していた……。
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