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 ユウが男の子だと発覚して、女子四人は光の速さで四人用のチャットグループを作り直した。表ではユウと普通な感じで会話しながら、裏でチャットがもの凄い勢いで流れていく。 桜:男の子だよ、男の子! もう、驚きだよ! 智代:男の子だったなんて思わなかったなぁ……。やっぱりチャットだけだとなにも分からないのね 明菜:ヤバい……緊張してきた…… つかさ:はあ……はあ……男の子の声……はあ……はあ…… 智代:つかさ、落ち着いて。ボイチャにも若干荒い息乗ってるから  明菜と桜が高校二年生、つかさが中学三年生、智代が大学一年生で、みな年齢はバラバラだが、一つだけ言えるのは共通して男に死ぬほど飢えている、ということだった。学校にはもちろんほとんど男子がおらず、いてもお金持ちのお嬢様や陽キャなんかが囲んでいて、近づくことも叶わない。そんな中、数年も一緒にゲームをプレイしていたフレンドが男子だと知ったのだ。興奮しないわけがなかった。 つかさ:あっ、ユウくんが欠伸しました。尊すぎます…… 明菜:鼻血出てきた 桜:うぉおおお! 興奮してきたぁあああ! もう今すぐにでも襲いたい! 智代:みんな、落ち着いて! 向こうでもちょっと本性出てきちゃってるから!  まだ辛うじて知性の残る智代がそうブレーキを掛けるが、彼女がいなかったら今頃どうなっていたことか。それほどまでにみんな興奮しているのだ。 「それじゃあ、そろそろゲームしましょうよ。そろそろシルバーにいけるんですから」  ボイチャでユウがそう言う。それにみんな同意の言葉を返した。 智代:それじゃあこのチャットはまた後で。 明菜:興奮しないよう頑張る 桜:私、無理かもしれない つかさ:私もおそらく無理だと思います…… 智代:ちょっとみんな頑張ってよ。引かれたらお終いなんだから  そうして表向きはいつも通りのゲームが、裏では阿鼻叫喚の興奮模様が繰り広げられているのだった。    *** 「Aメイン、サウンド無しです」 「了解。ミッド、複数足音」  そんなやり取りをしながら俺たちはシルバーへの昇格戦を行っていた。最初、ゲーマーに男が少ないと聞いて大丈夫かと思ったが、みんな優しくて何も問題なかった。しかし姫プみたいにならないようにちゃんと活躍しないとね。前世で言うところの、キャリーされる女子みたいにはなりたくないからね。 「Bメインも複数。こっちが本命かも」  このゲームは、マップがA、B、ミッドと三つのルートに分かれていて、俺がいまいるのがA。で、敵がいるのがミッドとBみたいだ。俺は後ろから敵を倒すために大きく回り込むことにした。慎重に足音を立てないように敵の背後に近づいていく。 「あっ、やられた! ゴメン!」 「私もやられた!」  立て続けに桜と明菜がやられた。二人ともBを守っていたから、もうBには守る人がいない。完全に中まで入られただろう。それから俺が背後を取る前に智代も二人を道連れにして死んだ。残るのはつかさと俺。敵は三人だ。 「あぁああ! すみません、一人だけしか落とせませんでした!」  どうやらつかさも先に行って死んでしまったらしい。 「でも設置阻止してくれたのは有り難い!」  敵側が攻撃のターンなので、こっちの陣地に爆弾を設置する必要がある。その爆弾設置を阻止してくれたのだ。かなり大きい。残り二人。二対一だ。緊張感が増してきた……。  俺は足音を立てないように近づいて……敵が再び設置しようとしているところを狙い撃つ! よしっ、一人落としたし、爆弾も俺の目の前に落ちている。しかも敵がいると思われる場所が袋小路だ。出てくるしかあるまい。全神経をマウスを握る右腕に捧げる。そして——。  WIN! 「やった! 勝ったぁああ!」 「おめでとう!」 「流石、ユウ。やってくれると信じてた」 「これでシルバーですね!」 「ようやくシルバーだねぇ。長かったなぁ」  俺の勝利にみんな喜んでくれる。やっぱりチーム戦のゲームってこの一体感がいいんだよなぁ。 「って、そろそろ俺、終わらないと。今日は家族と外に食事に行くって約束があるんだった」 「あー、それは終わらないとね。でもちょうど良かったね、シルバー行けて」  俺の言葉に智代がそう返してくる。 「そうですね! 今日はありがとうございました! 楽しかったです! またやりましょう!」  そう言って俺はボイチャを終えた。いやぁ、やっぱり久々に人と話しながらゲームすると楽しいなぁ。しかし……最後落ちるときに『ぶはっ』と何かを吹き出すような音が入っていた気がするが、大丈夫だろうか?    ***  女子たちはその後もボイチャを続けていた。もちろん話題は先ほどの彼、ユウのことである。 「またやりましょう、ですって! またやりましょう、ですってよ! 恋人みたいじゃないですか!?」  興奮気味のつかさ。  しかしそれはみなも同じだ。 「これはもう結婚。私とユウは間違いなく結婚できる」 「私だってユウと結婚するから! 良かった、男性の重婚が認められてて!」 「本当ですね! みんなでユウくんのお嫁さんになりましょう!」 「でも、ユウって恋愛とか興味なさそうじゃない?」  最後に放たれた智代の言葉に、一同凍り付く。 「……確かに」 「そうかも……。全然男らしいところもアピールしてくれなかったし」 「くっ……やっぱり今時の男子ってそうなんですか……。恋愛に興味ないんですか……」  納得する明菜と桜。つかさは心底悔しがっていた。そんな中、智代は少しだけ冷静で、考えるようにこう言った。 「まあ、全く興味ないってことはないと思うんだけどねぇ。あんまり意識してないだけだと思うな」  その智代の言葉につかさは前のめりに言葉を紡ぐ。 「そうですよね! それだったら、私たちがアピールして意識させればいいんです!」 「なるほど、その手があったか」 「それはあり寄りのあり! ユウはあまり女の子慣れもしてなさそうですし、ワンチャンいける!」  つかさの言葉に水を得た魚のように明菜と桜はテンションを上げる。ブレーキ役の智代も、 「そうね……。やり過ぎは良くないと思うけど、やっぱりアピールはしていかないとね」  そんなことを言い始めた。 「って、そうだ。私、そろそろバイトがあるんだった」 「そういえば、智代のバイト先って何処だっけ?」  明菜に聞かれて、智代はこう答える。 「私のバ先? 私は普通にちょっとお高めのレストランのウェイトレスをやってるわ。品を求められるから大変だけど給料は良いのよねぇ。でもなんでいきなり?」  そう首を傾げる智代に明菜は説明した。 「私は不登校だから。時間あるし何かやろうと思って」 「え、バイトするの?」 「うん。バイトでお金貯めて、ユウとデート行く」  その言葉に食いついたのは桜だった。 「えー! ズルい! 私もデートしたい!」 「でも桜の高校はバイト禁止だったはず」 「そうだけど! ぐぬぬっ……。どうやってお金貯めよう……」 「私は……お母様におねだりすればワンチャン……」  悩む桜につかさも悩み始める。 「って、そろそろ本気で行かないとマズい時間だから! ちょっと落ちるね!」 「はーい、お疲れ様でした!」 「お疲れ」 「おつかれれい! じゃあ私たちも解散するか〜」  桜の一言で、今日は解散することになった女子勢。一方その頃、ユウ……もとい祐二は車の後部座席で玲菜と由衣に挟まれながらも、頭の中で今日のプレイの反省点を洗い出すので必死なのだった。
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