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START:07
いやぁ、あそこまでダッグの話で盛り上がれるとは思わなかった。俺は学校からの帰り道、そんなことを感慨深く思いながら歩いていた。昼休みに話しかけてくれた女の子は俺のコントローラーの動きだけでダッグのコンボを練習していると見抜いた。なかなかやる。あんなゲーマー女子もこの世界では普通なんだなと考えていたらすぐに家に着いた。
自室に入り、即刻パソコンを起動する。そしてSNSアプリを起動させ、みんなに用事から帰ったからゲームでもやろうと伝えると、すぐに桜から連絡が来た。
桜:私はいますぐに出来るよ!
ユウ:やった。じゃあ早くやろう、早速やろう
桜:わかった! ちょっと準備するから待ってて
そう返事が来るから待つ。ついでに他の人からも返信が来ないかと期待したが、今日はみな忙しいのか返信が来なかった。明菜辺りは俺と同じ引きこもりニートだからすぐに来ると思ったのだが、返事が来る気配がなく俺は少し不思議に思い桜に尋ねてみることにした。
ユウ:なあ、明菜は来ないのか?
桜:あー、明菜ね。バイトを始めたらしいよ!
ユウ:へぇ、バイト! 明菜がとうとうバイトねぇ……。人は成長するもんだ
欲しいものでもあるのだろうか? しかし明菜がバイトで俺が学校に行くとなると、ゲームする時間は夕方から夜にかけてか、休日になってしまうな。まあ、平日昼にゲームしてたのって俺と明菜くらいだから大した変化でもないんだけど。
桜:準備できたよ!
ユウ:おっ! やろうやろう
そしてゲームを起動し、通話を開始する。全体グループではなく、個人チャットで通話を開始した。
「よしっ、始めるか!」
「うん、始めよう! 今日は二人でバリバリ勝って、一足先にランクを上げちゃおう!」
「いいねいいね。ふふふっ、先にゴールド行って驚かせてやりたいところだ」
俺たちはそんな企みの元、ランク戦を開始する。そして野良の人とマッチし、五人パーティーとなって試合開始だ。順調に一ラウンド、二ラウンドと勝利を重ねていく。野良の人もボイスチャットをして作戦や情報を共有してくれるやる気のある人たちだった。
そんな中、俺と野良の二人が残る。相手は三人だ。緊張感の漂う場面。今までは年齢制限でゲーム内VCも使えなかったが、ようやく解禁されたことを思い出して声を発してみることにした。
「Bメインから攻めましょう!」
「うん、わかっ……って、男!?」
パンッ! 俺が話しかけた途端、野良の人は手元が狂ったのかマウスをクリックしてしまったらしく誤射して音を出してしまっていた。マズい! 敵に位置がバレた!
「音で位置がバレてしまったので、早く反対側に移動しましょう!」
「おと、おと、おと、男……男だぁ……」
何か変なことを口ずさんで……って、そうか! 俺が男だから驚いて銃を誤射してしまったのか。じゃあ俺が悪いじゃん。ゲーマーの男は珍しいらしいからな。そりゃ驚くか。失念していた。
「すみません! それよりも速く移動を……って、あ」
俺は突然目の前に現れた敵にヘッドショットされてしまい、死んだ。続けざまに野良の人も撃たれてそのラウンドは負けてしまった。ボイスチャットアプリの方で桜が呆れたように言った。
「ちょっとぉ、野良の人が誤射したから負けちゃったじゃない!」
「まあまあ、俺が話しかけたのが悪いんだし、仕方ないでしょ」
「……確かにそうかぁ。私だって普通にゲームしてていきなり男の声が聞こえてきたらああなったかも」
あっ、桜もああなるんだ。そんなことを思いつつ、再びゲーム再会。しかし野良の人たちはさっきの失態を取り戻すべく、破竹の活躍を見せ、ほぼ完封で勝利を収めてしまうのだった。それから更に数戦やって、俺たちはご飯とお風呂に行くことになった。
「いやぁ、結構勝てたね!」
終わり際、桜がそう言う。
「そうだな。くくくっ……先にシルバー2上がっててみんな驚くだろうな」
「そうだね! ふふふっ……みんなの驚く顔が楽しみだね!」
「それじゃあ、またみんなでやる?」
「あっ、ごめん! 夜はちょっと用事があってできないんだ! みんなでやってて!」
「おう、わかった。それじゃあ、また明日か」
「そうだね! また!」
そう言い合って、俺たちは通話を切る。しかしこの時間から予定か。桜も意外と多忙そうなんだよなぁ。そう思いながら夕食を食べようとリビングに降り、食卓につく。すると先に来ていた由衣がスマホで動画を見ていた。
「何見てるんだ?」
「最近流行りのアイドルのMVだよ! ラブ・フォールってアイドルグループなんだ!」
「へぇ……アイドルねぇ……」
「この子たち、みんなゲームが好きなオタクでやってて、めっちゃゲームも上手いんだよね!」
ゲーム好きのアイドルか。まあこの世界では普通なのかな。前世だったら、オタクに媚びてるって言われたり、あんまり上手くないって叩かれたりしそうだけど、この世界ではゲーマーは女性のものだ。それ故に同性受けも良さそうだし、アイドルとしては良い戦略なのではないだろうか。……どの目線で語ってんだって話だが。
「最近凄い来てて、学校でも流行ってるんだよね~、彼女たち。これから絶対来るよ! それに来月から新規で新しい子たちが入ってくるみたいだし!」
「ふ~ん。そうか。凄いなー」
「……お兄ちゃん、ゲーム好きだから食いつくと思ったのに、全然食いつかないじゃん。ちぇ~」
何だよ、それが目的かよ。俺は呆れたように由衣を見た。
「俺は自分でやることにしか興味ないの。まあ、俺よりも強かったら認めはするけど」
「……お兄ちゃんの朴念仁」
俺は由衣に半目で睨みつけられながら、そう言われるのだった。
***
桜はボイスチャットから落ちると、すぐにメールアプリを開いて連絡を確認した。するとそこには新規メールが受信していて、合格の通知が届いていた。
「やったぁ! 受かってた!」
思わず両手を挙げて喜んでしまう。そう、彼女はラブ・フォールの新規メンバーに募集していたのだ。バイトが禁止な桜の通う高校だが、特殊なことに芸能科も付随していて、芸能活動だけは例外で認められているのだ。だからアイドルになってユウとのデート代を稼ごうと思ったわけである。祐二の前世の価値観であれば女性アイドルが恋愛するのは良くないことだとされていた。しかしこの世界のアイドルは主に同性に向けて発信するものであり、恋愛というより憧れで売る側面が大きい。故に、憧れの対象となるべくこの世界の女性アイドルは逆に恋人を作ることを推奨されているのだ。
そんなラブ・フォールに合格していた桜は早速メールを返信する。それから何度かやり取りを重ね、三日後にはマネージャーと打ち合わせが行われることとなるのだった。
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