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俺もさすがにやや腕が疲れたので、彼女が置いたところでひとまず袋を下ろした。肩を上下させると、ぽきぽき、といい音がする。
湿気が多いせいか、何となく汗ばんでいるペンキ塗り鉄骨の駅柱にもたれて、ちょいと一服、と俺は煙草を取り出した。紗里は煙草は嫌いなので、彼女の部屋に行くと吸えない。今のうち、だ。
ふう、と息をつきながら、ぼんやり、辺りに視線を飛ばす。
この時間は、勤め帰りの連中のラッシュがひと段落する時間だった。そして次第に「駅前」にガキどもが集まり出す時間だった。
時々紗里の部屋に行く関係で、この駅はよく俺も利用している。
週末なんぞは、何処からやってくるのか、中坊高校生のガキどもがうじゃうじゃと集まってくる。古典的ヤンキーからチーマーやら、ロックやってます兄ちゃんだの、ゲーマーだの、何処から見てもただのガキ、とか、塾さぼってやがるなこいつ、まで千差万別だ。
だから、その姿を見かけた時も、俺は別に疑問に思わなかった。
……マキノ?
「お待たせ。あれ、どうしたの?」
「ん、いや、知ってる奴じゃないかなって……」
「高校生?」
うん、と俺はあまり目立たないように彼女に示す。
「小柄だね。華奢ぁ。可愛い子じゃない」
「可愛い?」
「だって、そう思わない?」
「……おい、うちの新しいバンドのメンバーだぜ?」
「へ? 高校生って言ったじゃない」
「高校生は本当。だけどすげえ上手いの。ベースの腕はぴか一」
「ふーん…… まああんたのベースに関する目は信じましょ」
そして彼女はよいしょ、と一度置いたスーパーの袋を持ち上げた。
「挨拶してかないの?」
「え? ……あれ」
どうやら連れが居るらしい。奴は少し目を離したすきに、別の誰かと話していた。
「……ま、別にいいさ。また会えるし」
「ふーん……」
「それよっか俺、腹減った。急ごう」
そーよね、と彼女は言った。
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