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ちなみに美咲ちゃんと年少組の二人が顔を合わせたのはそう前のことではない。
何かと気軽にどうでもいいような会話がお互いに交わせるようになった頃のある日、彼女は缶ジュースと箱スナック菓子が山に入った袋を片手にやってきた。そして出会い頭にぶつかった。
「あ、新しい子達?」
「あ、ケンショーさんの妹さん?」
美咲ちゃんとカナイの反応は素早く、ほぼ同時だった。だが次の反応はさすが、美咲ちゃんの方が速かった。素晴らしい機関銃言葉が次々にだらしない男達に打ち込まれる。もちろん俺も、その一人だった。
「あの馬鹿にさんなんて付けなくてもいいわよ! 不肖の兄貴、生きてる!? オズさんお久しぶり! ねえねえ君達、少年達よ、甘いもの平気?」
一気に言い放つ。俺は元気だね、とか声をかけつつも、彼女の勢いに冷や汗半分で圧倒されていた。不肖の兄、はいつものことだと平然としている。
「俺は平気」
すぱっとカナイは言った。
「俺は好きですよ」
やんわりとマキノは言った。
「本当!ねえ、じゃあ練習の後、暇?」
二人は顔を三秒ほど見合わせ、うなづいた。
「実はこの先のホテルで……」
「それは駄目っすよ!」
べし、と頭を叩く音が耳に入ってきた。はたかれたのはカナイだ。いてーっ、と奴はあの割れ鐘の声を立てる。
「阿呆! 何考えてる青少年! ホテルのレストランで、ケーキバイキングがあるの!」
「あ、ティールームですね」
頭を押さえつつ、カナイは苦笑している。
「うん、ケーキ、好きは好きなんだけど、やっぱりちょーっとバイキング一人じゃ行きにくいじゃない……」
彼女は両手を合わせて、黙っていれば似合うポーズをとった。
「だから付き合ってほしいと?」
「さすがに二人分、全額出すとは言えないけど」
「俺、いいですよ。お茶代程度なら出します」
先にマキノが笑いを浮かべながらそう言った。
「あ、じゃ俺も。その位なら」
「本当? 良かった~ 何しろうちの猫は甘いもの苦手で」
「猫?」
ぴん、とマキノの目が片方つり上がった。あれ。
「うん、うちの同居人。可愛い子よ」
あ、そうですか、と一瞬張ったマキノの気が緩むのが判った。逆に張ったのは俺の方だった。
めぐみだ。ケンショーのもと同居人。
無論彼女は、そんな固有名詞はここでは出さないくらいのデリカシイはある。だが俺は、やや自分の手が汗をかいているのに気付いた。持っていたステイックが滑るのではないかと不安が起きる程に。
ケンショーは気付いてか気付かずか、ギターのチューニングをしていて、妹には背中を向けている。
「でもケンショーさんやオズさんじゃまずいんですか?」
マキノは軽く首を傾げる。
「……兄貴連れてくのは不毛よっ」
はあ、と二人の高校生は、腕を組んで言い放つたくましいOLにうなづいた。
「それに兄貴、良かれ悪しかれ、結構目立つののよねえ。恰好悪い訳じゃないし、ポリシーがあんのは判るけど」
美咲ちゃんは自分の恰好を指す。多少原色が入りつつも、基本的には大人しいスーツ。
「何っかほら、バランスが悪いと思わない?あれとあたしが並ぶと」
「……うーん」
マキノとカナイは顔を見合わせた。カナイは肩をすくめて答えを返した。
「ま、つまりは俺達の方がいいセンスしている、ということですか?」
「そ。それにやっぱり食べ頃の男の子二人も連れていくのって、結構おねーさんの夢なのよ」
……食べ頃の少年二人はやや複雑な顔になり、なるほど、と俺もうなづいた。
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