「変身」

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 学生の頃、時間をみては、兄の部屋の壁の造作棚にズラリと並ぶ本を借りて読んでいた。  中でも、カフカの「変身」を読んだ時の衝撃は、凄かった。  わたしは、一度読んだ本は、基本的には、もう読むことはないので、読んだあとに何年も内容を覚えているということはない。  しかし、「変身」は違う。  今になってまた、あの物語が気になって、どんな内容だったか、もう一度あらすじを読んでみた。  気になったら、直ぐにインターネットで調べられる便利な世の中だ。  覚えていた内容と、実際の内容は、だいたい合っていた。  そして、また今回も、切ないような、どこに心を持って行けばいいのか分からないような、そんな気分になってしまった。  さらに、「毒虫」というのは、イモムシのようなものなのだろうと思っていたので、もう少し良い環境にいられたら、もしかしたら、そのうちサナギになって、それから蝶になった可能性があると思い、ますますやるせない気持ちになっていた。  しかし、この「毒虫」、どうやらコガネムシのような甲虫だったのではないか、ということまで、分かってしまった。  さすがインターネット。  甲虫だったとしたら、それが成体だから、また「変身」しない限り、一生そのままだったということだ。  いずれにしても、わたしの心は晴れない。  だが、わたしは「毒虫」になってしまったわけではない。  また今日も、人間として成長することができるチャンスに恵まれた。  そう思って、行くしかない。
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