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 正人は釣った魚に餌はやらないタイプだ。  結婚するまではとにかく優しくて、家事も積極的に手伝ってくれるし、記念日とかも大切にしてくれるマメな男の人という印象だった。  大手企業に勤めていて収入も良いし、仕事も出来る。  身長も高くて細身だけど程よい筋肉が付いていて男らしい身体つき、おまけに結構なイケメンで周りからは羨ましがられていた。  男運の無いと思っていた私にしては、とても良い人と巡り会えたなんて思っていたけど、やっぱり男運なんて初めから無かったんだと思う。 「ああ? お前、随分言うようになったな? この俺がヨリを戻してやるって言ってんだよ、黙って従えよ、なぁ?」 「やっ……」 「行くとこねぇんだ、とりあえず泊めてくれよ、嫌とは言わせねぇぜ?」 「……っ」  関わらないと自ら制約を立てた正人は私とヨリを戻すと言って話を聞かないばかりか、私たちのアパートに転がり込もうとする始末。  初めこそ強く言い返していた私だけど、暴力を振るわれた日々を思い出してしまったせいか、身体が震え出して何も言えなくなってしまう。  入られたら終わり。  そう思ってもう一度追い返そうと口を開き掛けた、その時、 「おい、何やってんだよ? トラブルなら警察呼ぶけど?」  丁度いいタイミングでお隣さんが帰って来たようで、不穏な空気漂う私たちに声を掛けてくれた。
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